2018年の幕開けの瞬間に渋谷駅前で開催された、
『YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018』。
昨年に引き続き2度目の開催となった今回のカウントダウンは、
スクランブル交差点を中心とした駅周辺エリアが歩行者天国になり、
ステージイベントや街頭ビジョンでの映像演出などが行われ、
大盛況のうちに幕を閉じました。
主催者である渋谷カウントダウン実行委員会には
渋谷区も名を連ねていますが、
なぜ、渋谷区はカウントダウン開催に取り組むのでしょうか?
長谷部健渋谷区長にその想いを聞きました。

文=山田清機
写真=村上悦子

 

■日本の文化を海外に発信する「渋谷カウントダウン」

──第2回目となる「YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018」(渋谷カウントダウン実行委員会主催)が無事に終了しました。このイベントには渋谷区に本社を置く日本コカ・コーラも特別協賛という形で参加しているわけですが、まずは、今回のカウントダウンを振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。

長谷部 今回は、前回の約6万7,000人をはるかに上回る約10万人もの方々にお越しいただきました。大晦日の22時30分を過ぎて渋谷駅周辺で歩行者への道路開放が始まり、続々と人が集まり始めていく様子をハラハラドキドキしながら眺めていたのですが、おかげさまで大きな事故やトラブルもなく、ホッとしているところです。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

渋谷駅周辺の街頭ビジョンにはカウントダウンの映像が流れた。
「コカ・コーラ」のイメージキャラクターを務める綾瀬はるかさんも登場

──今回は渋谷駅前のスクランブル交差点に人が集中しない工夫をされたそうですね。

長谷部 前回は、カウントダウンまでは順調だったのですが、カウントダウン終了後、スクランブル交差点から駅へ向かう人の流れとセンター街に向かう人の流れが膨らんで、ヒヤリとするような場面もありました。そうした反省もあって、今回はメインステージをSHIBUYA109前と渋谷モディ前の2ヵ所に設けて人の分散を図るとともに、カウントダウンの後、明治神宮に初詣をしていただくことも考え、青の洞窟(渋谷公園通りから代々木公園に連なる約800mのケヤキ並木のイルミネーション)を終夜やっていただくことによって、渋谷公園通りの方向に人の流れをつくる工夫もしました。

──工夫の効果はいかがだったでしょうか。

長谷部 効果の検証はこれから関係者、関係機関と一緒にやっていきますが、いくつかの課題が明らかになったと思っています。

──具体的には?

長谷部 前回のカウントダウンに集まった方の、おそらく半数以上が外国の方だったので、今回は注意喚起を多言語で行ったり、メインステージで行うイベントの内容を、外国の方を意識したしたものにするといった対応を取りました。しかし、今年もまだ十分にケアできていない部分があり、一層の対策、対応が必要だと痛感しました。

──外国の方を意識したイベントの内容とは?

長谷部 前回は初の公式のカウントダウンだったということもあり、あまり演出のつくり込みはできませんでしたが、今回は和太鼓や津軽三味線の演奏など、日本の伝統芸能を演出の中に取り入れることにチャレンジしました。また、装飾面でも赤や金を多用して、日本のお正月の祝祭感を醸し出す工夫を凝らしました。

こうした演出には、渋谷カウントダウンを単に花火をバンバン打ち上げるようなお祭り騒ぎにはしたくない、という思いも込めています。というのも、時差の関係上、東京・渋谷のカウントダウンは世界で一番早く行われるカウントダウンでもあり、その映像が「最初の2018年の幕開けの様子」として、世界中で放送されるのです。だからこそ、日本のイベントだというアイデンティティーをしっかりと打ち出すものにしていきたいと考えています。いずれは、ニューヨークのタイムズスクエアと並び称されるような、世界に誇れるカウントダウンにしていきたいですね。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

「ロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷区」と言われるような
“成熟した国際都市”の実現を、渋谷区はビジョンとして掲げている

 

■規制ではなく“ポジティブな課題解決”を

──渋谷区はカウントダウンだけでなく、渋谷盆踊りや渋谷・鹿児島おはら祭り、公園通りや道玄坂におけるスポーツイベントなど、道路を活用したイベントにも力を入れていますが、区がこうしたイベントの実行委員会に参画したり、推し進めたりすることにはどのような意味があるのでしょうか。

長谷部 前回のインタビューでもお話ししたことですが、渋谷で生まれ育った僕は、ストリートカルチャーに揉まれて成長してきたという思いが強い。渋谷はよく新しいファッションの街だとか、新しいユースカルチャーが生まれる街だと言われますが、そうした新しいカルチャーは、ストリートで多様な価値観がまじり合い、刺激し合い、触発し合うところから生まれるものだと思うのです。僕が常々、「いつか『ホコ天』(*1)を復活させたい」と言っているのも、そういう思いがあるからなんです。

とは言うものの、行政が率先してストリートカルチャーをつくろうなんて思っても、うまくいくはずはありません(笑)。では、行政に何ができるかといったら、新しいカルチャーが生まれるような環境を整備していくことだけなんです。あるいは、いかに邪魔をしないかということのほうが大事です。

渋谷カウントダウンも同じことで、そもそもは自然発生的に始まったスクランブル交差点のカウントダウンを、規制し排除するのではなく、渋谷らしい新しい価値を創造し発信する場に転換するにはどうすればよいかという発想で、ポジティブに課題解決を図ったということなんです。

──そうしたポジティブな課題解決において、民間に期待していることはありますか。

長谷部 そもそも渋谷という街は、決して住人だけの街ではありません。働いている人、学んでいる人、遊びに来る人、学生時代によく遊びに来ていて第2の故郷だと思っている人……それこそ多様な人たちの思いが寄せられている街なんですね。そうした、民間企業も含めた多様なステークホルダーと一緒になってこの街を盛り上げていくのは、当然のことだと僕は思っているんです。

公共的な施設の整備や規制といった部分は、もちろん、行政が担っていくことですが、たとえば渋谷カウントダウンで言えば、祝祭感をどのようにつくり出していくかという演出の部分などで、日本コカ・コーラさんのように、民間企業からノウハウや資金を提供していただくことはとてもありがたいことだと思っています。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

日本コカ・コーラはSHIBUYA109前を中心にカウントダウン演出に協力。
「コカ・コーラ」の配布や巨大な「コカ・コーラ」バルーンの装飾に加え、
年明けの瞬間には赤い紙吹雪を降らせる演出で、渋谷の街を盛り上げた

──第3回目の渋谷カウントダウンの開催はまだ未定とのことですが、もし、次回も開催するとしたら、どんなことにチャレンジしたいとお考えですか。

長谷部 まず、安心・安全をさらに追求していくことが必要だと思います。安心・安全と賑わいの両立はなかなか難しいことですが、これは渋谷に限らず人が集まる街はどこでも抱えている課題ですから、テクノロジーの力も借りながらなんとか両立させていきたい。もう一つは、イベント終了後のゴミの清掃とその費用をどうするかですね。前回に引き続き、日本コカ・コーラさんのスタッフのお力も借りて会場周辺の清掃を行いましたが、誰が費用を負担するのかという問題も含めて検討や改善が必要だと思っています。

秩序を守るという部分をしっかりと固めながら、日本的な演出にこだわって、それを一層深めていけたらいいと思っています。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

終了後は日本コカ・コーラのスタッフ総出でゴミ拾い。
イベントを盛り上げるだけでなく一企業市民としての役割をきちんと果たすことが、
プロジェクトの継続と発展につながる

 

■駅前再開発から生まれるカルチャーの可能性

──長谷部区長は「同性パートナーシップ条例」など、全国に先駆けた新しい施策を打ち出してこられました。2018年、具体的にこれをやりたいという構想があればお聞かせください。

長谷部 施策の根本にあるのは2016年につくった渋谷区の「基本構想」であり、「YOU MAKE SHIBUYA」「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という考え方なんですが、少し具体的に言えば、2018年はエンタテインメント系、クリエイティブ系の施策をもっと進めていきたいと考えています。僕はITの世界で起きているイノベーションも非常にクリエイティブなものだと思っています。ですから、演劇やダンス、音楽だけでなくITを含めたエンタテインメント系、クリエイティブ系の人材や企業を呼び込む工夫をしていきたいですね。

──渋谷駅周辺では高層ビルの建設が進んでいます。これは区長のおっしゃるストリートカルチャーとは相容れないものように感じますが……。

長谷部 もちろん“高いビル”から生まれるカルチャーもあって、それを否定するつもりはないのですが、たとえば、ビルの中に小さなコンサートホール、ライブスペース、ギャラリー、あるいはスタートアップのインキュベーションセンターをつくっていただいた場合には容積率を増す(*2)といった施策を打ち出すことは可能だと思っています。さらに、高くなった部分は住居にして必ず人に住んでもらうようにすれば、夜間人口が増えて安心・安全にも寄与します。こうした工夫をすれば、高層ビルの建設とカルチャーの呼び込み、そして安心・安全の実現は、相容れない問題ではなくなるのです。

僕は広告代理店に勤めていた経験があるし、IT系のアイデア出しやブレストにも似たところがあるのですが、知恵さえあればお金をかけなくてもいろいろなことができると思っている。思考回路がそうなっているんです。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

取材を行った区長室には、SHIBUYA109前の通りが川になった
イメージ写真が飾られていた。
渋谷をもっと明るく面白い街にしたいという区長の想いの表れだろうか

──なるほど。現在の渋谷駅周辺の再開発(*3)は、周辺の原宿、代官山、恵比寿にどのような影響を与えているとお考えですか。

長谷部 すでに渋谷と原宿は繋がっていて、朝、表参道駅で降りて帰りは渋谷駅から乗るという人はたくさんいますし、その逆の人もいます。今回の開発では、代官山・恵比寿方面に回遊性が生まれることになると思います。渋谷川沿いの整備が行われて代官山へつながる道ができたり、桜丘町が開発されることによって代官山、恵比寿がより近くなる。代官山駅で降りて渋谷駅で乗るといったパターンも増えてくるのではないでしょうか。

その一方で、「奥渋谷・裏渋谷」とか「奥代官山」といった言葉が象徴するように、カウンターカルチャー的なものは渋谷駅から少し離れたところにしっかりと息づいている。そういう空気はちゃんと見えているので、これはいい兆しではないかと。渋谷はますます面白い街になっていくと思いますよ。

──ありがとうございました。

*1 1977年~1998年の間、休日は原宿・表参道の一部の道路が歩行者天国になっていた。派手な衣装を身にまといステップダンスを踊る「竹の子族」や、ロカビリー音楽に合わせてツイストを踊る「ローラー族」など、多くののストリートカルチャーが、この歩行者天国から生まれた。
*2 容積率とは、建築物の延べ面積(各階の床面積の合計)の敷地面積に対する割合のこと。地区によって容積率の上限が定められている。
*3 渋谷駅周辺の安全性・利便性・快適性の向上を目指し、渋谷駅中心地区基盤整備事業が進められている。駅周辺への4つの複合商業ビルの建設や渋谷川の整備、国道246号上への横断デッキの整備など、さまざまな計画が2027年までに予定されている。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

はせべ・けん / 1972年渋谷区生まれ。博報堂に入社後、さまざまな企業広告を担当する。博報堂退職後の2003年、ゴミ問題に関するNPO法人green bird(グリーンバード)を設立。原宿・表参道を皮切りに、全国60ヵ所以上に及ぶゴミのポイ捨て対策プロモーションを展開し、注目を集める。同年、渋谷区議に初当選。3期連続トップ当選を果たした後、15年より渋谷区長を務める。