文=星野貴彦
写真=若木信吾


コカ・コーラ社が「理想の企業像」を探して
各企業を訪問していく特別企画。
企画第2弾は、栄枯盛衰の激しいIT業界の中で、
若手社員を積極登用して着実に成長を続けているサイバーエージェントを訪問。
代表取締役の藤田晋さんに、
「社員を活かす」会社の組織づくりについてのお考えをうかがいました。


優秀な社員に満足される企業でありたい
──サイバーエージェントは独特の雰囲気をもった会社です。特に若手女性社員の活躍が目覚ましいですね。多くの大学生が、仕事もプライベートも手を抜かない「キラキラ女子」に憧れていると聞きます。

藤田 いつのまにか「美人社員が多い」という話が拡がってしまいました。女性ファッション誌からも、よく取材の依頼があります。このようなイメージはリクルーティングにはプラスですから、良いことだと思っています。ただ、誤解してほしくないのですが、面接で容姿を評価することは一切ありません。採用の基準は、あくまでも能力や人柄です。
「キラキラ女子」という評価をいただくのは、私が創業当初から「仕事だけでなく、プライベートも充実させるように」と言ってきた影響かもしれません。管理職になるような人間には、男女を問わず、部下から「ああいう風になりたいな」と思われる存在であってほしい。仕事がデキるだけでなく、女性らしさも兼ね備えている。幹部クラスにそういう人材が増えてきたことで、「仕事もプライベートも充実させる」ことが会社の文化として定着してきましたね。

What’s an ideal company image?
サイバーエージェント社長に聞く
「社員」が活きる会社のつくり方

──2013年の「働きがいのある会社」ランキング(Great Place To Work 調べ)では5位となりました。

藤田 ありがとうございます。ただ、従業員満足度が高いことが、単純に良いことだとも思いません。優秀な社員が満足していることが重要で、そうではない社員も含む全員を満足させたいとは思わない。働かない社員が優遇されると、働いている社員がやる気をなくしてしまう。褒められるのは嬉しいのですが、社内には「ランキングを気にするのはやめよう」と言っています。

──それでは優秀な社員の士気を高めるには、何が重要なのでしょうか。

藤田 本質的なことは2つです。ひとつは会社の業績が向上していること。もうひとつは社員が満足できる報酬です。この2つはごまかしが効きません。当社の場合、インターネットバブルの時期に「千載一遇の採用チャンスだ」と考えて、大企業から多くの転職者を迎えたことがありました。ところが2000年にネットバブルが弾けると、潮が引くようにその時入社した社員は辞めてしまった。いい時期にバーッとくる人は、悪い時期にはサーッといなくなる。会社としても赤字決算が続き、離職率が年間約30%という苦しい状況が3年ほど続きました。
 ツギハギの人材しかいない会社は非常に脆い。こうした問題意識から、2003年秋に役員全員で合宿を行い、「長く働く人を奨励する会社にする」ということを決定しました。そうしてまとめたのが、当社の価値観である「maxims(マキシムズ)」と、行動規範の「ミッションステートメント」です。サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」。そうしたビジョンは社内でも浸透しています。

 「社長」にすると、人は育つ
──入社数年目の社員を子会社の社長に登用するような「抜擢人事」にも驚かされます。

藤田 これは2004年から始めた「CAJJプログラム」の成果です(CACyber Agentの略)。これは、事業と人材(事業責任者)両方の育成を目的に名づけられました。グループ内の事業を利益額によって「J1」から「J5」まで5段階にわけ、利益が基準を上回れば上位に昇格。逆に1年半を過ぎても黒字化できなかったり、基準に達しなかったりする事業は降格や撤退(廃業)となる制度です。この仕組みが機能しているポイントは、撤退ルールの明確化です。事業経営での最悪手は「来期こそは黒字転換だ」と言いながら、ずるずると赤字を膨らませること。それを抑制することで、スムーズに事業を任せられるようになりました。
 また、もうひとつのポイントに「抜擢慣れ」を起こすという狙いもあります。横並びの年功序列では、組織が硬直化してしまい変化を嫌がるようになる。突然抜擢すると、最初の頃は「なんで、あいつが」と周囲は思うでしょうが、当社ではそれが頻繁に起きるので、「頑張っていれば、自分にも順番がまわってくるのでは?」と思えるようになる。組織をダメにするのは、歳を重ねれば自然に昇格するだろうという「そろそろ俺も課長かな」といった慢心です。それを防ぐために、常に刺激を与え続けるようにしています。

 ──経験不足の若手社員に事業を任せて、うまくいきますか?

藤田 もちろん失敗するリスクはあります。その反面、確実に人材は育つ。たとえ事業がダメになったとしても、その人材は失敗の経験を次に活かすことができます。そもそも未知の分野へ参入する場合に、最初から豊富な経験をもつ人材は存在しないのです。だから挑戦を恐れない「ベンチャースピリット」が必要なのですし、それは当社の根本的な価値観のひとつです。

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サイバーエージェント社長に聞く
「社員」が活きる会社のつくり方

──藤田さんは「ハードワーカー」として知られています。若いうちはがむしゃらに働くべきでしょうか。

藤田 成否を分けるのは、「結果を出さねばならない」という危機感をもって仕事ができるかどうかだと思います。結果を出すために必要になるのは、仕事の「時間」の絶対量の確保ではなく、いかにたくさんの経験をするかです。私は、経験不足を埋めるため、場数を踏むために「意図的に自分を忙しくする」ことを心がけました。

──「成果主義」とは違うのですか?

藤田 当社は「年功序列」以外の部分では、日本的経営を参考にしています。このため極端な「成果主義」には否定的です。短期的な成果にインセンティブを支払うようになると、モラルハザードが起きて、職場が乱れます。高い報酬をニンジンのようにぶらさげるのは間違っているし、日本の企業のカルチャーの中ではうまくいきません。重要なことは、働きに応じた十分な報酬を支払える利益体質をつくることです。

「飲みニケーション」は大切ですよ
──サイバーエージェントはわずか2年で「スマートフォン」の会社に一変しましたが、これも「ボトムアップ」の変革なのでしょうか。 

藤田 当社はこれまで2回、会社の構造を丸ごと変化させています。こうした大きな変化は経営者が「トップダウン」で決断しなければならないものです。ただ、私の決断に対し、社員たちは柔軟に対応してくれました。2000年の上場時にあった事業は、現在では跡形もありません。それでも事業構造を変化させながら、成長してきた。これは創業以来、地層のように積み重ねてきた「変化することを恐れない」という企業文化の成果だと言えると思います。
 最初の決断は2007年。事業の中心を、インターネット広告代理事業という「BtoB」から、自社でメディアを持つ「BtoC」へと変えるという決断でした。もうひとつの決断は2011年。事業の舞台の中心を「パソコン」から「スマートフォン」へと変えるというものです。2年前、わずか64億円の売上だったスマートフォン事業は、今年は915億円と、14倍以上に成長しました。ふたつの決断がなければ、いまの業容にはなっていません。
 当社は1998年の創業以来、大型のM&Aを行わず自己成長してきました。外部のサービスを買収するのではなく、グループ内で新規事業の種を育てる。グループ内では年間100以上のサービスを新たに立ち上げています。こうした戦略を採れるのも、当社の企業文化に拠るところが大きいと思います。

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サイバーエージェント社長に聞く
「社員」が活きる会社のつくり方

──社内にはユニークな制度がたくさんありますね。

藤田 せっかくの制度も浸透しないと意味がないので、ネーミングには工夫しています(笑)。会社から2駅以内に住むと月3万円の家賃補助が受けられる「2駅ルール」。2年以上勤続で、毎年5日間のリフレッシュ休暇が付与され、土日を含めて9連休をとることができる「休んで5(ファイブ)」。乱暴な表現になりますが、社員にいかに働いてもらうか、いかにやる気を出してもらうか。そのために色々考えています。

──社員同士のつながりも強いと聞きます。

藤田 会社内にはサッカー部や野球部、サーフィン部など、20以上の部活動があり、それぞれに補助金を支給しています。ただ、私としては、社員同士のつながりを強くするのに一番効果があるのは「飲みニケーション」だと思っています。だから社内の飲みを奨励していて、毎月、懇親会費が付与されるだけでなく、目標を達成した部署にはお節介なことに翌日の半休まで用意する制度があります。役員同士でも3カ月に1回、合宿をしているのですが、役員全員で飲む機会を増やしてからコミュニケーションが円滑になりました。そうすると、利害相反する部署同士でも、全体最適のために自分の都合を譲るということが起きる。「仲良くなる」ということは、意外に大事だと思います。一方で、「この会社には合わない」と思った人は、早めに辞めたほうがいいでしょう。どんな人にも合う会社なんてありませんから。

──あらためて「企業文化」のもつ価値について教えてください。

藤田 企業文化は、強い競争力になります。これは時間と歴史の積み重ねでできるものです。企業文化の根付いている企業は、事業転換を何度行おうとも、人が変わろうとも、成長できるはずです。サイバーエージェントの社員は何をやっても一生懸命やるし、すごく頑張ります。当社は創業当初から新卒採用を重視し、「一緒に働きたい」と思える人を採用してきました。「働く仲間が好きだから」「この会社が好きだから」と社員が思えれば、事業内容が目的ではなく、会社を成長させることが目的になります。だからこそ、広告代理店からメディア企業への転換、2年でのスマートフォンサービス立ち上げなどができたのだと思います。
 このインタビューはコカ・コーラさんのサイトに掲載されるんですよね? コカ・コーラも消費者のニーズを掴むという卓越した企業文化をもつ会社だと思います。特にウォーターブランドの「い・ろ・は・す」や缶コーヒーの「ジョージア」など、新しいブランドを日本で育ててきたことには、強い刺激を受けます。ブランドマネジメントの観点で、コカ・コーラの持つスタイリッシュなイメージには憧れがあります。今度はぜひコカ・コーラさんの取り組みを学ばせていただきたいですね(笑)。

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「社員」が活きる会社のつくり方

 プロフィール
藤田晋/(株)サイバーエージェント代表取締役社長。1973年、福井県生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、(株)インテリジェンスに入社。1998年、24歳にしてサイバーエージェントを設立し、代表取締役に就任。20003月に史上最年少社長(当時)で東証マザーズに上場を果たす。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』『起業家』(幻冬舎)などがある。