セルマズ・ドールズ」の共同創業者、ヴァレリー・アルヴァ=ルイズ(左)とコートニー・スティルワゴン

文=ジェイ・モイエ

 

■うちの子の人形が白人ばかりなのはなぜ?

コカ・コーラ社に勤めるヴァレリー・アルヴァ=ルイズは、ある日アトランタの自宅で、2歳の娘セルマのおもちゃを片付けていました。そのとき、娘の人形がみな似通った姿をしていることに気づきます。「全部、白人の赤ちゃんの人形だったんです」と彼女は振り返ります。

アルヴァ=ルイズは、娘が育つ現実世界が多様性に富んでいるのと同じように、人形の世界にも多様性があって然るべきだと考えました。そして、そんな人形がないか(もちろん、手触りがよく、値段が手頃であることは大前提です)、ネット上で探してみました。そして30分後には、「レイチェル」という名前の愛くるしいアフリカ系アメリカ人の人形にめぐり合い、すぐに注文したのです。

二日後にはレイチェルが届き、アルヴァ=ルイズは娘のセルマに、その新しいお友だちを紹介しました。ところが、娘の反応は彼女の期待したようなものではありませんでした。「レイチェルを初めて目にしたとき、娘は困惑したように『ママ、私この子が好きじゃない』と言ったんです。その言葉を聞いて、私はすぐに娘に、『あなたと見た目や話し方や服装が異なる人はたくさんいるけれど、みな好きなものは共通している』と、語って聞かせました。そして、自分とは異なる点が、相手を美しく、特別なものにしているのだと」(アルヴァ=ルイズ)。

こうして、その日のうちに、セルマはすっかりレイチェルがお気に入りになったのでした。「たった一つの人形で、娘の考え方が大きく変わった。だとすれば、“世界の多様性”を表現する人形が他にもあれば、同じような変化を多くの子どもたちにもたらせるはずだ、と思ったんです」(アルヴァ=ルイズ)。

 

■欲しい人形がないなら、自分たちでつくればいい!

彼女は会社の同僚でママ友でもあるコートニー・スティルワゴンを巻き込んで、“多様性のある”人形探しを進めました。しかし、アマゾンエッツィーといった大手の通販サイトを探しても、求めるものはほとんど見つかりませんでした。「あったとしても、それらは値段が高すぎるか、対象年齢が高すぎるか、プラスチック製だったんです」とスティルワゴンは振り返ります。

求める製品がないということは、その市場に空白があるということ。それに気がついた二人は、自分たちでほしい製品をつくり、販売することにしました。こうして創業した「セルマズ・ドールズ」のミッションは、違いを愛し、尊重し、受け入れる価値観を子どもたちの中にはぐくむこと。彼女たちはさっそく製品デザイナーを起用してプロトタイプをつくり、度重なる試作を経て、色合い、手触り、大きさが完璧で、安全性も兼ね備えた人形をつくり上げました。

動画:「セルマズ・ドールズ」の紹介
*英語のみ

 

■人形遊びがあらゆる違いを愛するきっかけに

セルマズ・ドールズ」は現在、柔らかくて軽い素材でつくられた3種類の人形を発売しています。キャラクターはそれぞれ、イスラム教徒のアミーナ、メキシコ系アメリカ人のローラ、そしてダウン症のアニー。購入すると、『First Day of Schoolはじめての学校)』というタイトルの絵本がついてきます。絵本のストーリーは、セルマという女の子が、夢の中で3人の個性的なお友だちに助けられ、初登校の日の不安を乗り越えるというものです。

絵本の中には、子どもたちに文化、宗教、心身の障害について話すきっかけをつくるための、両親に向けたアドバイスも入っています。

「人形を購入した両親たちからもらった最高のフィードバックは、子どもたちが寝るときも人形を手放さず、どこへ行くにも連れて行くという報告です。この人形は棚に飾るためにつくったものではありません。ぜひ、3人を愛して、お泊りや公園にも連れていって、友だち同士で話題にしてもらいたいですね」(スティルワゴン

セルマズ・ドールズ」の人形。左からローラアミーナアニー

 

アルヴァ=ルイズは、最後にこのように語ってくれました。「自分や友人の子どもたちが、ヒジャーブ(*イスラム教徒の女性が頭や身体を覆うために身につける布)を着けている人やダウン症の人を見て、『ママ、あの人はどこがおかしいの?』と訊くのではなく、『ママ見て、あの人私の人形にそっくり!』と言ってくれること。私たちが夢見ているのはそんな世界なんです」。