2011年の東日本大震災以来、コカ・コーラ社は、飲料の無償提供、学校への太陽光発電の設置などさまざまなかたちで被災地域の復興支援活動に取り組んでいる。
そして、震災から7年目を迎えた2017年7月、「コカ・コーラ 復興支援基金」の復興支援事業として、岩手県・宮城県・福島県の高校生を対象に、国際社会で活躍し、地域社会で貢献する人材を育成するための「英語コミュニケーションスキル研修プログラム」を開始することを発表。
これはいったいどんなプログラムで、コカ・コーラ社はどんな思いで取り組んでいるのか?
2018年3月に東京で行われた実地研修の現場を取材した。

文=山田清機
写真=森本洋輔

 

コカ・コーラ社らしい“ソフト面”での復興支援

 3月15日、午後1時。ボディーに「会津観光」と書かれた観光バスが渋谷の日本コカ・コーラ本社に横づけされると、制服を着た高校生たちが続々と本社に入ってきた。福島県立南会津高校の1年生、総勢49名だ。

 南会津高校は福島県の南西部、南会津町にある。町名に「会津」とはつくものの、会津地方の中心地・会津若松駅から電車で1時間以上かかり、町の92%を森林が占める山間の町だ。生徒たちは(公財)コカ・コーラ教育・環境財団が主催する復興支援事業のひとつ、「英語コミュニケーションスキル研修プログラム」の最終プログラムを受講するため、はるばる南会津町からやってきたのだ。

 ランチを終えると、さっそく5つのグループに分かれて英語による自己紹介が始まった。ファシリテーターは5人の留学生である。名前、趣味、好きな食べ物、好きな音楽など、使うのは簡単な英語だが、顔を赤らめて下を向いてしまう生徒も多く、雰囲気は固い。東京の有名大学で学ぶ留学生たちが、ジョークを交えながら生徒たちの緊張をほぐしていく。留学生の国籍はガーナ、ロシア、中国など、英語を母語としない国ばかり。彼らも苦労して英語を習得した経験の持ち主なのだ。

慣れない東京、はじめての会社の会議室というシチュエーションに
緊張している様子の生徒たちも多かった。
まだまだ笑顔はぎこちない

 

 コカ・コーラ教育・環境財団の事務局長、後藤佐悦子は、研修の狙いをこう語る。

 「2011年から2016年にかけての5年間、コカ・コーラ社の復興支援活動は、太陽光発電の設置助成やスクールバスの寄贈など、ハード面での支援が中心でした。しかし、東日本大震災から7年が経って、現地からの要望にも変化が出てきました。ハードからソフトへ、特に子どもたちの教育に関する支援を求める声が大きくなってきたのです」

 一方で、2019年には釜石でラグビーのワールドカップが開催されることが決まっており、東北地方に外国人観光客が増えることが予想される。

 「コカ・コーラ社はグローバル企業でもあります。『グローバル』というキーワードと、『教育』という軸を考え合わせたとき、われわれがやるべきことは英語教育の支援ではないかという答えが出たのです」

 コカ・コーラ教育・環境財団はすでに、東北地方の中学生・高校生を対象としたホームステイ研修を実施しており、250人を超える生徒たちを米国・英国に送り出してきた。この研修が好評だったことも、今回の研修の底流にあると後藤は言う。

 「2020年までの3年間で岩手、宮城、福島の30校、合計1,000人以上の高校生に研修を受けてもらう予定ですが、今回はその第1期。すでに岩手県不来方高校、福島県あさか開成高校の生徒たちが研修を終えました。明日は、宮城県石巻高校、同県松島高校、そして岩手県釜石高校の皆さんも順次最終プログラムを迎えます。国際的なイベントにいらっしゃる外国の方に、郷土のことを英語で紹介できるだけでなく、震災以降、東北地方が抱えているさまざまな課題についても、英語で発信できるようになってほしいと願っています。また、自分のキャリアを考えるきっかけになったら嬉しいですね。今後も、普段の授業では味わえないワクワク感のある、“コカ・コーラ社ならではの研修プログラム”を実施してまいります」

本社オフィスのリニューアルに携わった社員が、オフィスを案内。
「社員がハッピーな空間で仕事することで、お客さまにもハッピーになっていただきたい」
というオフィスの空間コンセプトを聞いた

 

■英語の習得ではなく、英語での発信を目標に

 英語での自己紹介タイムのあとは、コカ・コーラ社社員による英語での国際的なスポーツイベントの紹介とオフィスツアーが続く。気持ちが十分に「英語モード」に切り替わったところで、生徒たちは再びバスに乗り込み、六本木ヒルズの見学へと向かった。六本木ヒルズ見学の目的は、英語で観光ガイドをするプロフェッショナルの仕事に触れること。そのためバスには、通訳案内士の国家資格を持つガイドが同乗していた。

“アウェー”のオフィスを出てバスに乗ると
皆ホッとした様子で饒舌になる。
英語を使ったレクリエーションにも楽しげに取り組んでいた

 

六本木ヒルズに到着し展望デッキに上がった生徒たちの多くは、初めて見る風景に興奮気味。このときばかりは、研修というよりも修学旅行の雰囲気だった。では、引率の先生たちはこの研修に何を期待しているのだろうか。1年生の担任のひとり、後藤正毅先生に伺った。

「南会津町は山の中の町ですから、外国人と接する機会がほとんどありません。でも、町は英語教育に大変力を入れていて、グローバル人材の育成を町の強みにしたいと考えているのです。南会津町は震災で直接的な被害は受けませんでしたが、特産品のトマトが風評被害に遭っており、これからは外に発信していく力が大切になると思います。この研修が英語力だけでなく、生徒の発信力に繋がっていくといいと思っています」

 こんな先生の願いを知ってか知らずか、展望デッキからの眺めに歓声を上げていた生徒たちがバスに戻ると、ガイドの英語のシャワーが待ち構えていた。

 バスは東京タワー皇居国会議事堂、建設中の新国立競技場と、東京を代表するモニュメントを次々と通過していく。ガイドは沿道の建物を英語で解説しながら、それにちなんだ問題を次々と出していく。スピードが速かったせいか「全然聞き取れなかった」という生徒もいたが、手を挙げて質問に答える生徒の姿も見られた。

これにて1日目のプログラムは終了。
一同は代々木オリンピック記念青少年総合センターに宿泊した

 

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