■「コミュニケーションに文法は関係ない」

Apple→English→……とアルファベットでつないでいく“英語版しりとり”や
リズムに合わせて体を動かすアクティビティで、頭と体をほぐしてから、研修スタート

 

 2日目は、この研修のメインイベントであるプレゼンテーションが行われた。実は、この「英語コミュニケーションスキル研修プログラム」には6ヵ月におよぶ長い前段階があり、東京本社での2日間は、その成果発表の場だったのだ。引率の板倉雄太先生が言う。

 「昨年の9月、2日間の日程で留学生のみなさんが南会津に来られて、プレゼンテーションで重要なアイコンタクトやジェスチャーの指導をしてくれました。生徒たちは地元を紹介する英文を事前に用意していて、それを留学生と一緒にスキット(寸劇)にしたり、ポスターをつくったりしてプレゼンテーションしていきました」

 9月以降、研修は徹底した英作文の添削指導に入る。自己紹介に始まり、郷土の人物、歴史、風土の紹介などをまずは自力で英文にし、それをコカ・コーラ社に送ってプロの外国人講師に添削してもらう。

 添削の回数は全部で6回。最終回である第6回目のテーマは「海外の有名人を郷土に案内する」であり、生徒たちは今回、このテーマで書き上げてきた英文を、一人ひとりグループ内でプレゼンテーションする。さらにファイナルイベントでは、各グループの代表が全員の前でプレゼンテーションを行うことになっている。

各チーム、担当の留学生が英作文を添削し、話すときのコツを指導。
全員真剣に取り組んでいるのが印象的だった

 

 10時30分、留学生によるウォームアップアクティビティが終わると、グループ内プレゼンテーションの時間が始まった。担当する留学生によって指導の仕方はさまざまだったが、ほとんどの留学生が、“Don’t be shy.”“Don’t be afraid.”と異口同音に言っていたのが印象的だった。留学生の一人、ガーナ出身のメンサさんは、生徒たちのプレゼンをこう評価した。

 「昨日は緊張していて恥ずかしそうだったけど、今日はかなり楽しめたんじゃないかと思います。みんなに、英会話は辛いものじゃなくて楽しいものなんだ、コミュニケーションに文法は関係ないんだってことを伝えたかった」

今回の留学生チームのリーダーを務めたメンサさん。
英語の流暢さはもちろんだが、場を盛り上げ、
生徒たちを勇気づけるコミュニケーションスキルも素晴らしかった

 

 11時30分、いよいよ代表者5人によるプレゼンが始まった。誰を、いつ、どこへ連れていき、何を食べ、何をするのか。独自に考えた「郷土案内」のプランを、スタッフを含めると100人近い聴衆の前で、英語で発表していく。

 それぞれ見事なプレゼンテーションだったが、代表者の中から、菊地みずきさんと斉藤夢季(ゆうき)君の二人に話を聞くことができた。

ジャスティン・ビーバーサム・スミスなど
自分の好きな有名人を想像しながら、観光プランを紹介していく。
名物「赤べこ」づくりを体験したり、アミューズメントパークで遊んだりと
プランにも個性が表れていた

 

■自分の将来について考えるきっかけに

 菊地さんはロシアのフィギュアスケーター、エフゲニア・メドベージェワ会津若松城鶴ヶ城)の花見に案内するプランを発表した。落ち着いた発表ぶりが際立っていたが、意外なことに英語は苦手で、歴史の勉強が好きだという。

 「9月に留学生の方が来てくださったときには、自分の思いをうまく伝えられなかったり、手助けしてもらわないと(プレゼンが)できなかったりして、悔しい気持ちがありました。その悔しさが、英語をもっとがんばろうという意欲につながったと思います」

 将来について考えるきっかけにはなっただろうか。

 「留学生のみなさんが大学の博士課程で勉強しているようなすごい方ばかりだったので、とても憧れを感じました。私は学校の先生になりたいのですが、南会津で暮らしていると英語の必要性を感じる機会がありません。でもこの研修を受けて、教育の世界も大きく変化していて、英語も必要なんだということを理解できたと思います」

チームメンバーの友だちにアドバイスをするなど、
端からは英語が得意そうに見えた菊地さん。
この最終プログラムをきっかけに、苦手意識が少しは消えただろうか

 

 斉藤夢季君は俳優のトム・クルーズを冬の猪苗代湖に案内するプランをつくった。冒頭、トム・クルーズ役を務める留学生に向かって、“Hi, Tom Cruise!”と大きなジェスチャーで挨拶をして、会場中を沸かせた。斉藤君もやはり、英語は得意ではないという。

 「そんなに英語は話せないのですが、自分の頭の中にあることが日本語以外の言語で相手に伝わる経験は、とても楽しかったです。この先も英語の勉強を継続していきたいと思いました」

 郷土のことを改めて学びなおして、どんなことを感じただろうか。

 「僕は陸上部で長距離をやっていて、学校周辺の緑豊かな環境の中を走るのが大好きなんです。将来は自分で何かをつくる仕事をしたいと考えていますが、自分がつくるものの中に、たとえば南会津の木を使ったりできたらいいと思います。六本木ヒルズからの眺めもよかったですが、僕にはやっぱり自然が豊かな南会津の方が合っている。地元の美しさを再発見できました」

 いつか斉藤君が、南会津の名産品を取り入れたオリジナルな「作品」を、英語を使って世界に紹介する日が来たら素晴らしいと思う。

斉藤君は、文法や単語を多少間違えても、
ジェスチャーや表情で伝えることができたのが嬉しかったとも話してくれた。
何よりも「伝えたい気持ち」が大切

 

 最後に、担任の川井悠子先生に感想を伺った。

 「9月以降、英語が苦手な子たちも少しずつ英語に親しんで、変化していく様子がよくわかりました。日頃静かな子が張り切っていたり、プレゼンテーションをビシッと決めてくれたり……。いつもとは違う生徒の顔を見ることができて、とても嬉しかったです。生徒たちに、素晴らしい機会を与えていただきました」

 午後1時。終了証を受け取った南会津高校の49人を乗せたバスは、小雨が降りしきる中、六本木通りを福島に向けて走り出した。南会津町に着くころには、日が暮れているのかもしれない。


「英語が母国語ではない自分たちも、努力で話せるようになった」と
留学生は最後にエールを送った。
志をもって日本に学びにきている彼らの姿にも
生徒たちは刺激を受けたに違いない

 

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