文=ジェイ・モイエ

 

■店頭広告もパーソナライズの時代へ

ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)は創業から100年以上にわたり、看板、店頭ポップ、製品パッケージなどを活用した、消費者の目を引く斬新かつ魅力的なマス広告を展開してきました。マス広告は効果を発揮し、コカ・コーラ社製品の売上増に貢献してきました。ただし、消費者の感性や求める情報が細分化されている現代においては、共通のメッセージを幅広い人たちに向けて発信するだけでは充分とは言えません。消費者一人ひとりに“刺さる”コンテンツも発信できて初めて、「コカ・コーラ」広告の費用対効果は飛躍的に高まるのです。

そんな夢のような広告が、グーグル社が提供する最新のデジタル技術によって実現しました。それは、複数のクラウド技術を利用することによってつくられた新しいデジタルサイネージシステムのこと。同システムは、近くを通りかかった消費者のスマートフォンのデータを素早く読み取り、その人の嗜好に合ったコンテンツを表示します。たとえばコカ・コーラ社製品を販売する小売店舗やレストラン、映画館などに設置されたスクリーンを通して、消費者は自分好みのブランドの広告動画や電子クーポンなどのコンテンツを楽しめるようになるのです。

 

グーグル社が提示した“デジタル時代にふさわしい広告”の解とは?

新しいデジタルサイネージシステムの立役者は、ザ コカ・コーラ カンパニーでデジタルイノベーション部門を統括するグレッグ・チャンバースです。彼は2年ほど前からグーグル社に対し、「100年以上の歴史を持つ『コカ・コーラ』広告を、デジタル時代にふさわしい形態に生まれ変わらせたい」とリクエストしていました。しかも、「そのソリューションによって、従来の広告コストを大幅に削減する」という条件付きで、です。

この難題に見事応え、完成したデジタルサイネージシステムは、2017年3月にカリフォルニア州サンフランシスコで開催されたGoogle Cloud Next(*1)でお目見えしました。「2015年春にテストを開始し、秋には最初のプロトタイプを作成しました」と、チャンバースはプレゼンテーションで説明しています。

*1 Google Cloud Next:クラウド技術に関する最新情報を専門家、技術者、経営者等の参加者間で共有・議論する、グーグル社主催の大型イベント。

 

このシステムは、クラウド上に保存されたコンテンツを、グーグル社のOS「Chrome」とデジタルサイネージアプリ「Kiosk(*2)がインストールされた専用画面に表示させます。そして、グーグル社の広告提供ソフトウェア「DoubleClick」が、対象者に応じたメッセージ(ブランドや店舗のキャンペーン、アプリが案内する買い物リストなど、内容は多岐に渡ります)を配信し、同時に、製品の在庫や売り上げのデータを収集します。

近くにいる消費者の情報の取得には、スマートフォン機器のビルトイン機能と、グーグル社ビーコン(*3)Eddystone」の、二つの技術が使われています。これらにより、店内スクリーンに近づいたユーザーの好みや行動パターンの情報を把握し、それに応じたコンテンツをリアルタイムで表示することが可能になるというわけです。

*2 Kiosk:案内板やホテルの受付など、スクリーンを通じて単一のサービスを継続的に繰り返し提供することを目的とするアプリ。グーグル社が提供している。
*3 ビーコン:Bluetooth Low Energy(BLE)というデジタル機器用の無線通信規格を使用した、信号の発信機。スマートフォンなどのデジタル機器が信号を受信すると、その情報がサーバーに送られる。ビーコンの信号が届く範囲は限られているため、受信したデジタル機器の位置を把握でき、例えば店舗にビーコンを設置し、近くに来た消費者のスマートフォンにサーバー経由で広告を配信するといった活用が可能となる。

 

■活用の可能性は無限大

新しいデジタルサイネージシステムは、小売企業の収益向上にもつながりそうです。スーパーマーケットチェーン「アルバートソンズ」の250店舗で試験運用をしたところ、1ヵ月で投資コストを回収できるほどの広告効果がありました。「『コカ・コーラ』だけでなく、炭酸飲料カテゴリ全体の売り上げが、大幅に増加したのです」(チャンバース)。

デジタルサイネージの活用シーンは、小売店舗にとどまりません。「たとえば、レストラン用のメニューボードも低コストで作成することができます。個人営業のお店から全国規模のチェーンまで、活用の方法は無数に考えられますね。また、ネブラスカの商店、ニューヨークのレストラン、カリフォルニアのテーマパーク、西ヨーロッパの映画館、ニュージーランドのスタジアム……それぞれ、事業の形態も顧客の特徴も異なることを私たちは理解しています。このシステムの何よりの特長は、ハードウェアとテクノロジーの組み合わせ次第で、あらゆるビジネスに展開できるという点です」(チャンバース)。

特に活用が期待される分野の一つが、映画広告です。映画館内、もしくは周辺に設置されたデジタルサイネージ上で、消費者は自分専用にカスタマイズされた予告編を見ることができるし、上映時間を確認することもできます。さらには、レジ前の列に並ぶことなく、スマートフォン上でチケットや飲食物を購入することも可能となるでしょう。

ちなみに、このプラットフォームは「コカ・コーラ」以外のブランドにも開かれています。「各ブランドがコンテンツを保存できるように、安全な環境を提供します。このようなテクノロジーを活用することにより、『コカ・コーラ』をはじめとするブランドは、お客様に感動体験を届けるという本来の事業の目的に集中できるようになるのです」と、チャンバースは最後に語ってくれました。