聞き手=野村訓市
写真=若木信吾
構成=『Coca-Cola Journey』編集部


クリエイティヴ・ディレクター、ファッションデザイナー、ミュージシャン、音楽プロデューサー、ショッププロデューサー……。さまざまな顔を持つ藤原ヒロシさんは、彼が仕事や遊びで関わる広大なフィールドでアメリカ合衆国(以下、アメリカ)と接してきた。

前回のインタビューでは、音楽、ファッション、クラブカルチャーから80年代のニューヨーク事情まで、藤原ヒロシさんらしい幅広い話題で盛り上がったが、今回は何とビジネスや経済にまで話題を広げ、アメリカをさらに深掘りする(もちろん、『コカ・コーラ』の話も!)。

聞き手は今回も、年に10回以上は訪米する「アメリカ大好き人間」の野村訓市さん。超多忙な二人がじっくりと話し合うことのできる機会は、めったにない。この貴重なインタビューを、読み逃すなかれ。

 

■スケート・カルチャーが教えてくれたこと

──音楽で言うと、ヒロシくんが一番最初に好きになったアメリカのミュージシャンって誰なんですか?

藤原ヒロシ(以下、HF) 「オハイオ・プレイヤーズ(*1970年代、ファンク・バンドの代表的存在として一時代を築いた。ブルース的で泥臭い独特のファンク・ミュージックが特長)とか。「チェット・ベイカー(*ウエストコースト・ジャズの代表的トランペット奏者でありヴォーカリスト)の声も好き。ソウルとかジャズが好きだったんだよね。

──あっち系が好きだったんですか。

HF 音楽は好きだったんだけど、バンドのバックボーンとか背後にあるカルチャーとかはまったく知らなかった。

──音だけでなく、カルチャー込みで好きになったアーティストとかいなかったんですか?

HF いなかった。

──完全否定ですね、アメリカンカルチャーの(笑)。

HF 否定する気はないんだけど、なぜかいなかったんですよね。僕が若い頃は(1970年代~80年代初頭)サーフィンが流行ってたから、みんな「Eagles」を聴いたり、みたいなことはあったんだけど……。僕も、友達からもらったカセットテープとかで「Eagles」を聴いたけど、全体的なカルチャーには惹かれなかった。


藤原ヒロシさん


──それは珍しいですね。当時の日本人なら、アメリカの流行のビッグウェーブが来たら呑み込まれてしまいそうなものなのに。

HF それくらい、当時の僕にはイギリスのパンク(*セックス・ピストルズなど)の方がインパクトがあったんですよね。

──初めてアメリカのカルチャーで好きになったのはスケートボード・カルチャーみたいな。

HF そうかも知れない。最初に好きになったのはヒップホップなのかも(*ヒップホップは、スケートボード・カルチャーと密接な関係にあった)。聴いていて面白いなと思ったのは「アフリカ・バンバータ(*ニューヨーク出身のミュージシャン、DJ。クール・ハークグランドマスター・フラッシュと並ぶ、ヒップホップの創始に関わった3大DJの一人)とか「グランドマスター・フラッシュ(*バルバトス出身のミュージシャン、DJ。アフリカ・バンバータクール・ハークと並び、ヒップホップの創始に関わる重要なアーティスト。現在、数多くのDJたちにとって欠かせない技術であるスクラッチを広めた人物と言われている)かな。

──元ネタが「クラフトワーク(*ドイツの電子音楽グループ マルチメディア・エレクトロニック・プロジェクト。長年に渡り多くのアーティストたちにも多様な影響を与え、『エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ 』とも言われる)だから好き、とか。

HF そうそう、そういう感じ。

──もろにアメリカ、みたいなのには惹かれないんですね。

HF そういうところはありますね。

 

■「コカ・コーラ」はアメリカの三種の神器

──そうは言っても若い人から見たら、藤原ヒロシ=裏原宿をつくった人=《ナイキ》《リーバイス》《ステューシー》というイメージがあると思うんです。グラフィックTシャツにスニーカーが好きな人、みたいな。すべてアメリカなんですよね。

HF カルチャーで好きになるものはなかったけど、《ナイキ》とか《リーバイス》とか「コカ・コーラ」とか、“点”では好きになるものがありました。よく考えると、《ナイキ》《リーバイス》「コカ・コーラ」は、アメリカの三種の神器的なところがあるよね。昔、「コカ・コーラ」の自動販売機型のラジオのノベルティがあって、それが凄く欲しくて、一生懸命応募して抽選で当てた気がする。

野村訓市さん


──アメリカの三種の神器は好きなんですね。

HF アメリカンカルチャーを紹介してた初期の『POPEYE』(マガジンハウス刊)はよく読んでいたから、その影響は受けていると思う。今思えば、80年代に僕がDJを始めた頃、周囲にいたモデルの8割方がアメリカ人だった。残りの2割も、アメリカ人と日本人のハーフとか。それくらい、当時はアメリカンカルチャーが全盛だった。「コカ・コーラ」の世界観じゃないけど、アメリカの西海岸の田舎のかわいいお姉ちゃんとかっこいいお兄ちゃんが楽しそうに遊んでいるイメージがあふれてた。80年代の「コカ・コーラ」のCMは、すごくアメリカナイズされていましたよね。

それが80年代末になるとペレストロイカ(*ソビエト連邦で進められた政治体制の改革運動)や東欧革命(*市民や労働者によって共産主義政権が次々と倒された一連の民主化革命)が起きて、ロシア人とかベラルーシ人とか東欧系のモデルが一斉に広告の市場に入ってきて、世界の広告の雰囲気がガラッと変わったんです。それが面白かった。

──撮影のとき、モデルに「どこから来たの?」って尋ねたら「ジョージア」って言うから「アメリカのジョージア州かあ」と思ってたら実はグルジア(*2016年4月22日から国名呼称をジョージアに変更)だったってことが頻繁にあった(笑)。

HF モデルの話はそこまでにしてアメリカの話に戻すと、アメリカって良いものをつくっているのに、自分たちがつくったものが良いものだということを知らない国だったんですよ。実際、ヴィンテージデニムにしてもヴィンテージスニーカーにしてもMA-1にしても、発掘して再評価したのは日本人です。

日本人が「リーバイスのファーストはいい」と言いだしたから、ヨーロッパでも「ヴィンテージデニムはおしゃれだ」と言いだして、やっとアメリカ人も「良いものなんだ」と気が付いた。

──アメリカのファッションって、いわゆるトラッド(*アメリカントラッド。アメリカ東海岸の名門大学連盟“アイビーリーグ”を卒業したエリートたちが伝統を重んじながら広めたアメリカのスタンダードスタイル。3つボタンのブレザーにチノパンが典型的スタイル)やワークウエアが多いと思うんですけど、そのあたりはヒロシくん、好きですか?

HF 好きですよ。


──「レッドウィング(*ミネソタ州発祥のブーツメーカー。90年代、女性デュオのパフィーSMAPのメンバーが同社の《アイリッシュセッター》を着用したことで、日本全国に『レッドウィング』ブームが起きた)のブーツを履いて、「リーバイス」のデニムを履いて、ライダースジャケットを着て……ということも、ヒロシくんは好きなんですね。

HF そういう格好をしているときもあったよね。「レッドウィング」はすごく履いていたし、「ショット(*1913年、ニューヨークで誕生したアメリカンカジュアルブランド。ライダースジャケットやピーコートに定評がある)とかも着てたし。アメリカ製だからとか、アメリカで流行っているからという理由で身に付けた、ということはないけど。

──ヒロシくんが身に付けているもので一番アメリカっぽいなぁと思うのは「ゴローズ(*ジュエリーデザイナーのレジェンド、故・高橋吾郎が1971年から始めた原宿のジュエリーブランド。セレブリティの愛用者多し)のアクセサリー。インディアンっぽい。まさに「ザ・アメリカ」ですけど、なぜ許してるんですか?

HF さっきから誤解しているようだけど、僕はアメリカ嫌いじゃないよ(笑)。僕が「ゴローズ」を身に付けている理由はシンプルで、品質が良いから。本物のインディアンのジュエリーって、そこまで美しくないというか、品質が良くないんですよ。LAなんかでズラッとインディアン・ジュエリーが並んでいても「ゴローズの方が全然良いな」って思っちゃう。

──音楽も含めてアメリカ生まれのものはすごく好きなんだけど、そのままアメリカから出てくるものは好きじゃないんですね。

HF (笑)。アメリカは料理の仕方がうまくないのかもね。良いものがアメリカで生まれて、一度外国に出て、逆輸入されて洗練されるというか。

■“アメリカンドリーム”というカルチャー

──ヒロシくんはアメリカっていう国自体はどう思っています? グローバル経済、資本主義の中心国として。

HF このインタビューの前篇でも話したけど、世界中どこへ行っても均質なモノやサービスを手に入れられる仕組みをつくったことはすごいと思う。僕はいろんな国に行っているけど、アラビア文字や中国語で「コカ・コーラ」と書かれたコンツアーボトル(グラスボトル)を中東や中国で発見すると、感動するよね。海外で何を飲んだら良いか分からないときでも、「コカ・コーラ」を頼んでおけば大丈夫だろうという安心感がある。それって、すごいことだと思う。グローバルだなって思う。

ただ、アメリカの資本主義的なところに関していうと、僕はあまり好きじゃない。人のお金で何でもやるって感じが馴染めない。僕個人としては自分のキャパシティの中で生きていきたいと思うし、大風呂敷を広げて、人からいっぱいお金をもらって事業をするのは好きじゃない。


──とは言いながら、IT企業やコカ・コーラ社などのグローバル企業がアメリカに多いというのは事実です。中国やアラブやロシアのお金もガンガン流れ込んでいる。

HF 僕自身は人のお金で事業をする気はないんだけど、アメリカ社会は人のお金で事業をしやすいんだと思う。社会が成熟しているから、お金で人を応援するのが上手い。アメリカには「100人の才能に投資して、一人でも開花すれば充分」みたいな大らかさを感じる。だから、どんどん起業家が生まれる。

──やっと良いことを言ってくれましたよ、アメリカに対して(笑)。

HF 一方で日本は、投資する方もされる方も慣れてない。僕なんかもそうだけど……。どんなに大きな企業に「お金を出すよ」と言われたとしても「いやいや、そんなにもらっても困るから、要りません」ってなっちゃう。やはり日本人は真面目だから。

──確かに日本は「才能への投資」が少ないような気がします。アーティストとかも「アメリカで大人気だった」というと受け入れてくれるけど、純粋に作品だけを見て、「この子はすごいからうちのギャラリーに入ってくれ」というアプローチは少ない。IT企業にしても、アメリカには投資の舞台としてのシリコンバレーがあるけど、日本はなかなか……。

HF みんなの顔色をうかがって動くから。

──見方を変えれば、アメリカってすごく商売臭いんですけどね。だけど、いくら商売臭くても自分の責任で決断する人、発言できる人がいる強さというのはある。

HF そういう意味じゃ、今でもアメリカンドリームは成立しているかも知れないね。

 

■HF的アメリカ映画鑑賞法

──アメリカンドリームと言えばアメリカ映画を想起するけど、そういう映画は好きですか? 『フォレストガンプ/一期一会(1994年公開。ロバートゼメキス監督)みたいな。

HF 人生真面目にやってりゃいいことありますよ、的なところが好きじゃないんだよな(笑)。『ゴーン・ガール(2014年公開。デヴィッド・フィンチャー監督)みたいなのが好き。あとは『羊たちの沈黙(1991年公開。ジョナサン・デミ監督)とか。サスペンス系が好きみたい。


──『バットマン』シリーズみたいなキャラクター系は?

HF 僕の友人に「『ダークナイト』(2008年公開。クリストファー・ノーラン監督)だったらヒロシくんもいけますよ! 絶対面白いから観てください!」って言われて観たんだけど、殴り合いしてやられそうになったときにバットマンが空を飛んで逃げるシーンがあって、それを観た瞬間に「ああ、飛べるんだ。最初から飛べば良かったのに……」って気持ちが萎えちゃって。プロレスチックなところがダメだった。

ホラーでも、『エクソシスト』(1973年公開。ウィリアム・フリードキン監督)のような悪魔が出てくる映画はダメで、『13日の金曜日(*1980年第1作目公開。シリーズものとして8作、配給会社が変わってからも、数作関連作品が公開されている)のような殺人鬼が出るものなら観られる。殺人鬼とかゾンビの場合は頭を撃ったら死ぬっていうルールがあるのに、悪魔の場合はこうすれば死ぬっていうルールがないじゃない? 最初のうちはテレポートとかしているのに、最後は1対1で戦っちゃったり……それがダメ。

──オカルト映画に物語の整合性を求める人に初めて出会いましたけど(笑)。

HF そういえば、来週仕事でポートランドに行くんだけど、現地での楽しみは『ジェイソン・ボーン』を(2016年公開。ポール・グリーングラス監督。『ボーン』シリーズ5作目)観ることだな。

──100%アメリカな映画じゃないですか!

HF こんどアメリカ映画観ようよ。

──ぜひぜひ。「ドリトス」をパリパリ食べて「コカ・コーラ」を飲んで。

HF 僕は日本のお菓子の方がいいな(笑)。



[写真左]ふじわら・ひろし / 1964年、三重県生まれ。fragment design主宰。80年代からDJとして活動し、ヒップホップ、クラブミュージックを中心に自らもステージに立つ傍ら、UAなど人気アーティストのプロデュースも手がける。現在、音楽プロデューサー、アーティスト、ファッションデザイナーなどさまざまな立場で独自の活動を続けている。今年、デジタルメディアのRing of Colour( http://ringofcolour.com )を立ち上げた。

[写真右]のむら・くんいち / 1973年、東京生まれ。世界のフェスティバルを追ってアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。また同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業に関わる傍ら、雑誌などで執筆も行う。J-WAVEの「antenna* Travelling Without Moving」(毎週日曜20時00分~O.A.)ではナビゲーターを務めている。
www.tripsters.net