今年、日本発売60周年の節目を迎えた「ファンタ」。
同じく60周年を迎えた“同級生”ブランドの一つに、ホンダのオートバイ「スーパーカブ」があります。
どちらも、長年たくさんのファンに支えられてきた製品同士です。
今回は「ファンタ」のブランドマネジャーを務める日本コカ・コーラ伊藤修平が、本田技研工業の本社を訪ね、「スーパーカブ」の広報を長年担当してこられた高山正之さんと、長く愛されるブランドについて語り合いました。

同じ時代を生きてきた両ブランドの、知られざる共通点とは……?

文=高島知子
写真=村上悦子

 

■日本の道路事情に合わせた“まったく新しい”バイク

伊藤 「ファンタ」は今年、ブランド日本上陸60周年を迎えました。今回は、この夏に同じく満60歳となったホンダ「スーパーカブ」の記念イベントに併設された「スーパーカブと素晴らしき仲間たち」展に「ファンタ」も参加させていただいたご縁で、ぜひじっくりお話を伺いたいと思い、お邪魔しました。高山さん、よろしくお願いします。

高山 よろしくお願いします。「ファンタ」は子どもの頃に飲んでいましたよ。当時は下のほうが波形になっている瓶のボトルでしたよね? 握ったときの感触をまだ覚えています。

伊藤 そうですか! うれしいです。高山さんは広報部所属とのことですが、「スーパーカブ」を担当されて長いんですか?

高山 そうですね。二輪車全般の広報を25年ほど担当していますが、取材や書籍化の件数も「スーパーカブ」が圧倒的に多いです。実は、四輪車も含め、現在当社が販売している製品の中で、これだけが本田さん(*ホンダの創業者である本田宗一郎氏が開発を手がけた製品なんですよ。ですから、「スーパーカブ」についてだけでなく、本田さん藤澤さん(*共同創業者の藤澤武夫氏という創業者のエピソードがたくさん残っていることも、多くの人をひきつける魅力の一つかもしれません。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

「スーパーカブ」について取り上げた数々の関連書籍。
ここに用意されたものはほんの一部にすぎない

伊藤 高山さんに伺えば、何でもお答えいただけそうですね。まず、発売された1958年当時のことをお聞きしたいと思います。ホンダは昔も今も、“ものづくり”への妥協のない姿勢を徹底されていますが、「スーパーカブ」はどのように開発されたのでしょうか?

高山 もちろん「スーパーカブ」もその例外ではなく、当社の根幹にある「人々の生活に役立ちたい」という思いをそのままものづくりに反映した製品です。ちょうど当社設立10年目に発売した、初代モデルの「スーパーカブC100」は、「幅広い世代の人が簡単に乗れるバイク」を目指して開発が始まりました。

当時の日本はまだ舗装されていない道路が多かったので、既存のバイクの運転には高い技術が必要でした。ですから、「悪路でもすいすいと乗れて、タイヤの小さいスクーターよりも安定している、便利で小さなバイクをつくれないか」と、本田さん藤澤さんがヨーロッパに視察に行ったんです。

伊藤 ヨーロッパでは、二輪車が日本より普及していたんですね。

高山 ええ。ただ、そこで見聞きしたことを参考に考えたのは、まったく新しいバイクの形でした。向こうで流行っていたものは仕様や使い勝手が日本人や日本の道路に向いていなかったこともありますが、そもそも二人とも、人のマネをするのが大嫌いなので(笑)。

伊藤 なるほど(笑)。

高山 タイヤは安定性とコストなどの兼ね合いから、当時の市場には出回っていなかった17インチをわざわざタイヤメーカーに掛け合って開発してもらいました。また、当時の二輪車は2サイクルエンジンという、構造が簡単で軽く、コストが安いエンジンを使うのが一般的でしたが、燃費が悪く耐久性に劣るので、4サイクルエンジンを採用しました。これは構造が複雑で部品も多く、当然価格にも跳ね返ってしまうのですが、発売前から大量生産をしてしまい、単価を下げることでコストを吸収するという大胆な戦略を立てました。ヒットする以前に、藤澤さんがすでに三重県の鈴鹿市に専用工場の用地を確保していたんですね。「月3万台を売る」と目標を立てて。

 

■世の中の半数を占める女性にも乗ってほしい

伊藤 ヒットの前に、生産拡大のための工場用地を購入されていたとは、驚きます。

高山 本当に、先見性があったということなんでしょうね。当時の日本は高度経済成長期で景気が良く、白物家電(*冷蔵庫や洗濯機など)もどんどん普及していましたし、その波に乗って「スーパーカブ」も浸透していきました。

伊藤 パンフレットなどを拝見すると、発売当初から女性の利用も意識されていたんですね。

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女性が林の中でハンモックに寝て読書をする『ちょっと高原へ』篇の広告は、1960年頃のもの

高山 ええ。当時、バイクは「エンジンの音が大きくて怖い、操作が複雑そう、またがりにくい」という理由で女性から敬遠されていて、顧客のほとんどが男性だったんですね。でも、世の中の半数は女性ですし、女性にももっと生活に役立てていただきたいと、開発時点から意識していました。エンジンが見えないようにカバーした、すっきりとしたボディのデザインは藤澤さんの奥様のアドバイスがあったと、当時の開発者から聞きました。

 

■共通点1:世界中で愛される普遍的な魅力

伊藤 その後すぐ、海外にも進出されていますよね?

高山 そうですね、日本発売の翌年に「世界一を目指すならアメリカだ」と考えて、商社も通さず5人ほどでアメリカに拠点を立ち上げました。ただ、アメリカではもっと大きいバイクが主流でしたし、そもそもバイク自体が“ならず者の乗り物”みたいな感じで、あまりいいイメージではなかったんですね。まともに打ち出したのでは売れないし、もちろんホンダの販売店もないので、釣り具メーカーに「釣りのお供にどうですか」と提案したり、スポーツ用品店に売り込んだりして、少しずつ取り扱い店舗を増やしていきました。

地道に販売台数と販売店を増やした上で、アメリカ進出4年目となる1963年に「Nicest People Campaign」というキャンペーンを大々的に展開しました。これが、『TIME』や『LIFE』などに出稿した、そのキャンペーン広告です。ごく一般の方々がおしゃれに「スーパーカブ」を乗りこなすイラストを描いています。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

1963年、アメリカで大々的に展開された「Nicest People Campaign」の宣伝広告。
〈YOU MEET THE NICEST PEOPLE ON A HONDA=ホンダに乗ると素晴しい人びとに会える〉のコピーで知られる

伊藤 そうやって、海外でもファンを増やしていかれたのですね。「スーパーカブ」は日本から海外へ飛び出し、「ファンタ」は海外から日本へやって来ましたが、やはり長く愛されるブランドは、国を問わず愛される普遍的な魅力があるのかなと感じます。

高山 そうかもしれませんね。「ファンタ」は、どうやって日本に定着していったのですか?

伊藤 「ファンタ」は元々、1940年にドイツで誕生しました。第二次世界大戦の影響で、ドイツでは「コカ・コーラ」の原液を輸入できなくなり、「何か国内で生産できる飲料はないか?」ということで開発されたのが発端です。その後、20ヵ国以上に展開する中で、1958年から日本で販売されるようになり、「クラブソーダ」と、今も定番となっている「オレンジ」と「グレープ」の三つのフレーバーでスタートしました。高度経済成長期まっただ中の当時、日本人の欧米文化に対する憧れは大きく、生活様式や文化が積極的に取り入れられていく中で、「ファンタ」も徐々に浸透していきました。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

日本での発売当時のポスター

高山 初期の製品が、私がよく覚えている瓶のタイプですよね。缶はその後でしたか?

伊藤 はい、10年後に登場しています。そのころに初めて広告も制作し、缶の発売と同時に、より広く普及を図るためにTVCMを出稿しました。

高山 うちもそうですが、売れたものはすぐにマネされますよね。「ファンタ」もこれまで、似たような製品がたくさん出てきたと思います。

伊藤 そうですね。ですが、その中でも「ファンタ」は、単においしさを提供するだけでなく、ティーンを中心に「楽しいモーメント」を提供することをブランドとして目指してきました。なんといっても、「ファンタ」の名前の由来は「Fantastic(すばらしい)」「Fantasy(空想)」ですからね。そのことが消費者の皆さんにも受け入れられているからこそ、長く親しまれているのだと思います。

 

■共通点2:ブランドを象徴する定番デザイン

伊藤 時代に合わせて製品のバリエーションやコミュニケーションを変える中で、他国とは違う、日本ならではのスタイルも生まれています。たとえば、日本ではこれまで100種類以上のフレーバーを展開してきましたし、2006年からは「バブルボトル」と呼んでいるはじける泡をイメージした「ファンタ」らしいボトルを採用しているんです。

高山 ほかの国では、違う形なんですか?

伊藤 ええ、他国では、果実をしぼった形を模した「スクイズボトル」が主流になりつつあります。日本での導入も検討はしたのですが、消費者アンケートで何度検証しても「バブルボトル」が常に1位の評価なんです。「これじゃないとファンタじゃない」とまで言われて。過去には、他にいろいろなデザインが提案されてきたのですが……。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

左から、「ファンタ グレープ」「ファンタ オレンジ」「ファンタ レモン+C」。
そして、「スーパーカブ」の初代モデル、「スーパーカブC100」の模型

高山 そうなんですか。「スーパーカブ」は発売当時から基本的な形を変えていませんが、実は、別に今の形を変えないという方針があるわけではないんですよ。むしろお客様のニーズや感覚を踏まえて常により良い案を探しているのですが、歴代の担当者がいろいろとアイデアを出しても「やっぱりこのままがいい」という結論になって、今まで続いてきたんです。

伊藤 なるほど! 既存のデザインが秀逸すぎて、なかなか超えることができない点は一緒ですね。

 

■共通点3:ファンを“仲間”にするコミュニケーション

高山 今は、どのような広告展開をしているのですか?

伊藤 2017年にブランドロゴの刷新に合わせてファンタ宣伝部を設立し、俳優の菅田将暉さんに「宣伝部長」として活動していただいています。同時に、YouTuberなどのインフルエンサーにも、宣伝部員としていろいろな情報発信に関わってもらっています。「ファンタ」の話題を、ティーンの中でどんどん波及させることを狙っているんです。

60周年の今年は、ファンタ」みんなのカンパイボトルを期間限定で発売したり、参加型のイベントとSNSを連携させたりして盛り上がりを図っています。ブランドから一方的にメッセージを伝えるのではなく、「ファンタ」がティーンたちと同じ目線に立つことで“仲間”になり、仲間同士の間で“ネタ”が広がっていく感じですね。

今のティーンを調査してみると、もう、前の日のテレビ番組の話題で全員が盛り上がるということは少なくなっているのですが、学校で友達と話題にできる“ネタ”はいつも探している、ということが分かりました。そして、彼らは、面白いことがあったらSNSを使ってどんどん発信していきます。自らが発信者となっているんですね。そんな現代のティーンに受け入れられて、「ファンタ」みんなのカンパイボトルはとても好評でした。

高山 どんな企画でも、楽しさを提供する、というブランドの目的はぶれていないですね。

伊藤 「スーパーカブ」は今年3月に、種子島の高校生の卒業をお祝いする新聞広告を出稿されて、話題になっていましたよね。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

2018年3月、スーパーカブで通学する生徒が多い鹿児島県の種子島高校の卒業生たちを祝福するために、
南日本新聞にホンダによる全面広告が掲載された

高山 これは、年間を通して“カブライダー”を応援する企画の一貫ですね。ずっと通学に使ってくれている島の高校生に、エールを送りたいと考えたのです。60周年に加えて、昨年は世界で生産台数1億台を突破し、記念になる話題が続きました。宣伝広告やPR活動については、スーパーカブ1台1台がそれぞれのお客様の生活の役に立ってここまできていますから、大玉の打ち上げ花火のような派手なことではなく、小さな花火を長い期間息切れしないように、たくさんの方に見ていただこう、と。

そのほか、毎年行っている「カフェカブミーティング」でも、今年は60周年をお客様と一緒に祝うことができました。

伊藤 なるほど、60周年に合わせて展開している企画が皆さんに響くのも、そうやって常にファンとつながりを持ちつづけているからなのかもしれないですね。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

毎年恒例の「カフェカブミーティング」の参加者は自前のカブで自走して集合するのが恒例。
今回の最年少参加者は17歳、最年長はなんと83歳だったそう

 

■日々の地道な努力がロングセラーを生む

伊藤 「ファンタ」の担当になって僕がまず驚いたのは、60年も歴史を重ねていると、誰もが「あのとき飲んでいた」というストーリーを持っているんです。冒頭で高山さんも、ご自身の思い出を語ってくださいましたし、私自身も、皆で集まる場に必ずあったという記憶があります。

高山 懐かしいです。私が子どもの頃は、駄菓子屋にも冷蔵庫がなくて、常温で飲んでいましたよ。缶のタイプを遠足に持っていったりしてね。

伊藤 いろいろな世代の方からそういったお話を伺えるのは、ロングセラーブランドならではですし、愛されてきたんだなと実感しますね。

高山 そうですね。あとは、やはり「スーパーカブ」がここまで支持されてきたのは、販売サービス網が充実しているからだと思います。形あるものは壊れることもありますが、それをすぐに直せる。そうしたきめ細やかな対応を地道にやっていかないと、長く愛される製品にはなれない。食品や飲料も、当社とはまた違う観点で大変ですよね。

伊藤 ええ、当社も製品の安全・安心は大前提だと捉えています。その上で「ファンタ」は、ティーンが今、どんなことに興味を持っていて、どんな体験を望んでいるのか、きめ細かくリサーチしたり、SNSを使って密接なコミュニケーションを取ることを心がけています。これからも、ロングセラーブランドとしてお客様に応援していただけるよう、引き続き努力を重ねていかなければと、改めて感じました。高山さん、今日は貴重なお話をさせていただき、ありがとうございました。

高山 こちらこそありがとうございました、また次の節目に向けて、お互いがんばりたいですね。

60歳の“同級生”対談が実現! 「ファンタ」×「スーパーカブ」 2つのロングセラーブランドが「長く愛される理由」とは?

たかやま・まさゆき / 本田技研工業株式会社ブランド・コミュニケーション本部広報部二輪広報課主任。 1974年、本田技研工業株式会社入社。約25年に渡って二輪部門の広報に携わる。

いとう・しゅうへい / 2016年、日本コカ・コーラ入社。「からだすこやか茶W」の担当などを経て、2018年3月より「ファンタ」ブランドマネージャーに就任。