2015年、 “コンツアーボトル”の名で知られる「コカ・コーラ」ボトルの誕生100周年を記念して、「コカ・コーラ」スリムボトルが日本で初めて発売されました。“コンツアーボトル”と同じコンセプトで、見ただけで「コカ・コーラ」と分かる独特の形状をした“スリムボトル”はすぐさま人気を集め、現在ではさまざまな限定パッケージが販売中。加えて、この8月には6つの地域限定パッケージも発売されます。
なぜ、“スリムボトル”にこれだけ多くのバリエーションが誕生したのか? パッケージデザイン開発、マーケティング、グラフィックデザインを担当する、株式会社コカ・コーラ東京開発センターの三河尻尚人日本コカ・コーラ マーケティング本部の石井純小野村亜砂子に話を聞きました。

文=小山田裕哉
写真=村上悦子

 

■10年越しに日本での販売スタート

──アルミニウム製の“スリムボトル”はもともと海外で販売されていたパッケージだったそうですね。

三河尻 そうですね、2005年に発売されました。向こうでは“アルミニウム・コンツアーボトル”と言うのですが、「コカ・コーラ」の“コンツアーボトル”ならではの曲線をアルミニウム素材で表現した世界で初めてのパッケージになります。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

“コンツアーボトル”と“スリムボトル”

──それが2015年に日本初上陸を果たすまで、実に10年もかかっています。なぜ、これだけの期間が必要だったのでしょう?

三河尻 海外で発売されてすぐ、日本でもやりたいという声は挙がっていました。しかし、日本と海外ではアルミニウム缶に求められる品質レベルが違うんですよ。だから、海外と同じつくり方では日本に導入できなかった。しかも、これまでつくったことのない規格のパッケージのため、工場への設備投資も莫大な金額になります。

“コンツアーボトル”はこのくびれた形状が特徴です。でも、アルミニウムをくびれさせるのは、技術的なハードルが非常に高い。そうした課題を乗り越えても国産のアルミボトルをつくる意味があるかどうか。そこを議論し続けたのです。

──実際に製品開発が始まったのは?

三河尻 開発が始まったのは2009年ですね。正式に決まったのは2014年でした。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

パッケージ開発担当の株式会社コカ・コーラ東京開発センター 三河尻尚人

──数々のハードルがあったのにもかかわらず、最終的に日本で“スリムボトル”をつくるべきだと判断した決め手はなんだったのでしょう?

石井 「コカ・コーラ」ならではの特別なボトル形状を引き継いだ、このアルミニウム製のボトルは、見た目が魅力的なだけではなく、今までにない「コカ・コーラ」の飲用体験をお届けできるプレミアムなパッケージです。アルミニウム素材のキンキンに冷えた感触は、「コカ・コーラ」のおいしさや爽快感をさらに引き立ててくれます。そのため、やる・やらないというよりも、やるための条件が整うまで10年という期間が必要だったのかと思います。

三河尻 やっぱり、この形状のアルミボトルは「コカ・コーラ」でしかあり得ないですから、お客様に一目で「コカ・コーラ」だと分かってもらえます。加えて、アルミニウム製ならPETボトルに比べて、キンキンに冷えた状態が長続きしますし、全面にデザインが施せる自由度が高いパッケージという特長もあります。だから、日本でも出すべきだという思いはみんなが持っていました。

 

■「発売時のインパクトを超える」というハードル

──そうして「コカ・コーラ」スリムボトルは2015年7月に発売されたわけですが、当時の反響は?

三河尻 予想以上にすごかったですよね。

石井 発売時は、我々の想定以上の売れ行きでした。私たちが思っていた以上に消費者の方々が、この特別な形状のアルミボトルに対して新規性を感じてくれたのだと思います。実際、普段はあまり「コカ・コーラ」を飲まない方にも、「久しぶりに飲んでみようかな」と思っていただけるきっかけになったと思います。

三河尻 これまでいろんな製品のパッケージ開発を担当してきましたが、“スリムボトル”は特に「あれ何?」という反響がありましたね。それだけインパクトが大きかった。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

コカ・コーラ」ブランドのマーケティングを担当する日本コカ・コーラ マーケティング本部 石井純

石井 ただ、新規性だけでは、時間が経つにつれて少しずつ魅力が薄れていってしまいます。そのため、登場時のようなインパクトや、“スリムボトル”ならではの価値をどうやって継続的に消費者に提供していくか。最初の反響が大きかった分、そうした挑戦が必要なことが分かってきました。そのためにも、「コカ・コーラ」スリムボトルとしての狙いを明確にする必要がありました。

──そこで登場したのが最初の限定パッケージである「ウィンターデザイン」ですね。

石井 これが2015年末で、翌年にはオリンピックイヤーデザイン(リオバージョンと東京バージョンの2種類)も発売しています。それぞれ好評でしたが、今の地域限定パッケージにつながるという意味では、転機になったのは2017年2月に発売された「桜デザイン」ですね。ここから“スリムボトル”ならではコンセプトが具体的に見えてきました。

たとえば「桜デザイン」であれば、日本人が持っている季節を愛でる価値に合致し、多くの消費者に、「コカ・コーラ」ならではのおいしさを、いつもとは違う特別な春らしい「桜デザイン」でお届けすることができます。そういった価値を消費者に提供していければ、他の「コカ・コーラ」製品とも差別化できますし、“スリムボトル”ならではの特別な価値もつくっていけると分かってきました。

 

■「コカ・コーラ」で季節感を表現する難しさ

──そうなると、特別感を演出するデザインの役割はますます大きくなりますね。小野村さんは“スリムボトル”では、どのような点を意識してデザインをしていったのでしょう?

小野村 “スリムボトル”はPETボトルのラベル印刷とは違い、アルミニウムに直接印刷するので、少し荒い仕上がりになります。だから、あまり細かい表現ができないんですね。しかし、季節限定パッケージのようなデザインでは、日本ならではの情緒的な雰囲気も表現していきたい。それをどこまで再現できるか。いつもサプライヤー(取引先)さんと相談しながら制作しています。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

パッケージデザインを担当する日本コカ・コーラ マーケティング本部 小野村亜砂子

──たくさんの限定パッケージが発売されていますが、デザインの統一ルールはあるのでしょうか?

小野村 「コカ・コーラ」は基本的に赤をベースに、白でアクセントを加えるという色の使い方をします。それを「桜デザイン」では、売り場が桜らしいピンク色の雰囲気になることが予想されたので、桜の白をメインにデザインをつくっていきました。

四季で難しかったのは夏の「花火デザイン」ですね。春は桜、秋は紅葉、新年は紅白というように、ほかの季節限定パッケージは赤と白という「コカ・コーラ」の基本カラーと馴染みやすいのですが、花火は夜空とセットですから、ベースが赤や白だと花火らしさを感じにくい。それで最初は濃い藍色をベースに、夜空に花火が広がるようなデザインをつくってみました。しかし、それだと「コカ・コーラ」に見えなかったんです。

だからベースは赤にしつつ、どうやって花火らしさを印象づけるかを考えることにしました。2017年、2018年と2回やっていますが、いずれもハードルが高いデザインでしたね。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

左から、2015年当初のスタンダードデザイン、2015年ウィンターデザイン
2017年の桜デザイン、花火デザイン、紅葉デザイン
2018年のNEW YEARデザイン、桜デザイン、花火デザイン、紅葉デザイン
そして、現在のスタンダードデザイン

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

左から、2016年のオリンピックイヤーデザイン(リオバージョンと東京バージョンの2種類)
2018年のFIFA ワールドカップ限定デザイン(6種類)

 

■観光客需要も高い「地域限定デザイン」

──2017年からは地域限定デザインも発売されています。これも「“スリムボトル”ならではの特別感をつくる」という意図から企画されたものですか?

石井 そうですね。特に各地のボトラー社(製品の製造・販売を担う会社)も地域に密着した活動を重視し、地元に根ざしたマーケティング活動に力を入れています。地域デザインのボトルは、そうした機運にもぴったりでした。それぞれの地域のニーズに応じた展開ができるようになったことで、地元企業や自治体との関係が深まり、地域から愛される企業になるというケースも増えています。

それに観光客のお土産としても地域デザインは人気です。インバウンド需要もかなりありますね。当初はそれほど意識していたわけではなかったのですが、今は最初から英語、中国語、韓国語など多言語でPOP(店頭用の販促物)を展開しています。これは四季のデザインも同様です。

──「東京デザイン」があるのに「上野デザイン」があるのも、観光客の需要を見込んで?

石井 はい。お土産としての需要があります。そのため、お土産や記念品として一定以上のニーズが見込める地域に関しては、積極的に展開したいと思っています。

 

■地域密着ならではのこだわり

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

これまでに発売された地域限定デザイン。
入るモチーフはそれぞれ異なるが、イラストのタッチとカラーのトーンが同じなので統一感がある

──各地域のデザインはどのように決めていますか?

石井 どのエリアを設定するかということも含め、ボトラー社と協議して決めています。

──「みちのく」や「瀬戸内」のように都道府県名ではないボトルもあります。

石井 やはり地域のことは、そこに住んでいる地元の方に聞いたほうがいいので、「どういう括り方だったら地域のニーズを満たせるか」という意見をボトラー社の方に伺いながら、それぞれの地域の特色をアピールしやすいように工夫しています。そこでいろいろ提案される「入れたい地元の名所や名物」を、どうやって“スリムボトル”のデザインに入れていくかということに関しては、いつも小野村さんがパッケージデザイナーの視点で工夫してくれています。

小野村 ボトラー社には、「あれもこれも入れてほしい」という地元に対する想いがあるんですよね。ただ、スペースには制限があります。所狭しとレイアウトして見栄えがしないものになってしまったら本末転倒じゃないですか。だから、何を入れて何を入れないか。そこは毎回話し合いです。

石井 「コカ・コーラ」らしいデザインを維持するためにも、毎回、その話し合いが大変重要になっています。

三河尻 でも、こうやって全部並べてもデザインに統一感があるのはすごいですよ。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

8月13日発売の新しい地域デザイン

──この8月に奈良、会津、渋谷、東京おもてなし、富士山(山梨)、富士山(静岡)と6つの地域が追加されることで、地域デザインは21ものバリエーションがあることになりました。昨年6月の発売開始から1年ほどで、ここまで地域が広がっていくとは想定していた?

石井 正直、想定していませんでした。最初は北海道、東京、京都、熊本、瀬戸内から始まって、ボトラー社の皆さんにご協力いただきながら、少しずつ増やしていきました。とにかく、地域デザインはボトラー社のみなさんからも大変好評な製品です。

小野村 「うちのエリアでも発売してほしい」という声はよく聞きますよね。

石井 それだけ地域に根ざした企画として認められているのだと思います。ボトラー社からも積極的に提案をいただいていまして、新たに発売される「富士山(山梨)」「富士山(静岡)」は、まさに地域密着の視点から企画されたものです。

──どちらも富士山をモチーフにしながら、見え方がちょっと違いますね。

石井 東京の人間はつい、「富士山」という大きな括り方で企画してしまいますが、山梨、静岡の方々にとっては、それぞれから見た時のちょっとした違いにこだわりがあるんです。

小野村 だから山の見え方の違いを描くことに加えて、隣に置く植物にも違いを出しました。山梨側は桜で、静岡側は松になっています。日本らしいモチーフという共通点がありつつも、パッと見てデザインの違いが印象に残るように工夫しています。

石井 こういう細かい工夫を積み重ねていくことで、地域ごとの特色を打ち出しています。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

今回の取材のために過去発売されたほぼすべてのパッケージを用意してくれたが、
担当者自身も「こんなにつくってきたなんて……」と驚いていた

 

■東京2020オリンピックまでに全国を網羅したい

──もともとは海外でスタートしたアルミニウム製ボトルの「コカ・コーラ」ですが、これだけのバリエーションをそろえているのは、日本だけなのでしょうか?

三河尻 デジタル印刷でラベルのテキストだけいろんなパターンをつくった例はありますが、新しいデザインを全部開発しているケースはないかもしれないですね。

石井 だから季節や地域の限定デザインの“スリムボトル”は、海外の「コカ・コーラ」コレクターの方からも評判が良くて、「ほしい」というリクエストをかなりもらっています。

──限定デザインはどこまで増やしていきたいですか?

石井 全国は網羅したいですね。東京2020オリンピックが開催されると観光も活発になっていくと思うので、それまでに各地域に根ざした限定デザインをつくれたらいいなと思っています。

小野村 地域が増えるほど、各地のデザインの差別化が大変にはなってきますが、地元のデザインが発売されることを楽しみにしている方も多いので、今後もこの高いハードルを乗り越えていきたいです。

石井 日ごろから「コカ・コーラ」を愛飲していただいている方はもちろん、普段「コカ・コーラ」を飲まない方にもアピールすることができるのが“スリムボトル”の良い点です。地域デザインも四季のデザインも、それからオリンピックやFIFAワールドカップのようなイベントに合わせたデザインも、幅広い消費者の方々と新しい接点をつくるための製品として、これからも大事に育てていきます。

[コカ・コーラ社のパッケージデザイン開発「コカ・コーラ」スリムボトル篇] “つい集めたくなる”限定デザイン誕生の舞台裏

[写真左から]
みかじり・なおと / 株式会社コカ・コーラ 東京開発センターに勤務。新製品のパッケージ開発担当として、「コカ・コーラ」スリムボトルも担当した。

いしい・じゅん / 日本コカ・コーラのマーケティング本部グループマネジャーとして、「コカ・コーラ」を担当。「コカ・コーラ」スリムボトルのマーケティングに関わる。

おのむら・あさこ / 日本コカ・コーラのマーケティング本部に所属し、「コカ・コーラ」スリムボトルのパッケージデザインを担当している。