ふたたび、ピカピカのパイプを辿って、原液と水が混じり合ったものが、炭酸と混じり合う機械にやってきました。ここで、ようやく、わたしたちが普段、口にするコカ・コーラが出来上るのですが、機械が高速で動いているので、のぞき窓から眺めても、早業に追いつけません。 

 「出来たてを飲んでみますか」 

 と稲場さんの嬉しいお言葉。 

 「もちろん、いただきたいです」 

 とわたしは答えます。

Coca-Cola Journey Special“Coke”
戌井昭人の
「コカ・コーラ製造工場見聞録」

<出来たてのコカ・コーラで乾杯>


 コップにそそがれた、コカ・コーラを手にすると、冷たさが伝わってきました。口の中で、はじける炭酸、甘い香り、もちろん味もさることながら、これまでの行程を見てきたので、さらに味わい深く思えてきました。 

 「すばらしく美味しいです」と言うと、稲場さんが、ニコリと笑ってくれました。その笑顔に、工場に対する誇りや、製品に対する自信が垣間見えました。 

 そういえば、こちらの工場の方々は、みなさん目が合うと、微笑んで挨拶をしてくれます。その笑顔は、PETボトルの鋳型が置いてある、町工場的な、ほっこりした、家族経営の工場のような雰囲気がありました。

 見学が終わり、北海道コカ・コーラプロダクツ 取締役工場長の伊藤春男さんのお話をうかがうことができました。伊藤さんは、真面目で素朴な方ですが、工場のことを話している最中は、厳しい表情になります。でも、ときたま見せる、はにかんだ笑顔が素敵です。

Coca-Cola Journey Special“Coke”
戌井昭人の
「コカ・コーラ製造工場見聞録」

<工場長の伊藤さんです>


 伊藤さんは、PETボトルがないころから工場に勤めていて、瓶に入ったコカ・コーラを出荷していたのですが、コカ・コーラ札幌工場では、冬には凍結した瓶を水で溶かす作業があったりといろいろ大変で、そのころと比べると、作業は、ずいぶん楽になったようです。しかし、伊藤さんは言います。 

 「たしかに、現在は、最新鋭の機械があります。でも大事なのは、やはり人間であって、従業員がすべてなのです」

  なるほど、最新鋭のオートメイション機械をそろえたコカ・コーラ札幌工場が、どこか町工場的な感じがあるのは、ここなのかもしれません。

Coca-Cola Journey Special“Coke”
戌井昭人の
「コカ・コーラ製造工場見聞録」

<おしまい>


■  プロフィール
いぬい・あきと / 俳優、劇作家、小説家。1971年東京生まれ。劇団文学座を経て。97年パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ、演者であるのと同時に脚本も担当。2008年『鮒のためいき』で小説家デビュー。09年『まずいスープ』で第141回芥川龍之介賞および第31回野間文芸新人賞の候補になる。11年に『ぴんぞろ』で第145回芥川龍之介賞候補、12年『ひっ』で第147回芥川龍之介賞候補、13年『すっぽん心中』で第149回芥川龍之介賞候補となる。




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