世界一有名な飲料「コカ・コーラ」を筆頭に、
数々の清涼飲料を企画・製造・販売しているコカ・コーラシステム。
その現場を、現役大学生の平野紗季子さんがレポートします。

第3回目は宮崎県にあるコカ・コーラえびの工場「グリーンパークえびの」で日々品質管理に取り組む工場長、中間管理職、若手社員、上司・部下「三代」のインタビュー。


文=平野紗季子
写真=鈴木泰介


「いくら工場がすごくたって、品質管理基準が厳しかったって、それらを扱うのは人。おいしい清涼飲料を安全につくり続けるために、何より大切なのは“人”なんだな……」
 実を言うと、今回の工場見学を通して一番感銘を受けたのは、そこで働く人たちの心意気でした。
 今稿では、工場見学の案内人を務めて下さった3名の方にじっくりとお話を伺います。年齢も役職も違う3名ですが、世代を超えて受け継がれているコカ・コーラならではのスピリッツを垣間見ることができました。

◯ 品質管理課 那須さんのお話

大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

 那須さんは、品質管理課の一員。「大学生の社会科見学 vol.2」で記した水処理施設や排水処理施設の管理の仕事を担当しています。話を伺う途中、何度もイヤホン越しに現場から呼び出しが入るほどの忙しさ。インタビューさせていただき、本当にありがとうございます。

「那須さんは、えびの工場に配属されてどれくらいなんですか?」(平野)

「1年経ちました。やっと心の余裕が出てきたところですね」(那須)

「それまではどちらに?」(平野)

「熊本の工場で、調合の部署にいました」(那須)

「なんと……! コカ・コーラの原液と触れ合っていたということですね……!」(平野)

「そうです。原液は、かなり濃ゆい、独特な香りがするんです」(那須)

「<そ、そうなんだ……内心ドキドキです>ところで、今のお仕事は楽しいですか?」(平野)
大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

「調合では清涼飲料の中身にしか関われなかったから、品質管理のことは全然知らなかったんです。だから、異動してからというもの、学ぶべきことが山ほどあって。仕事を覚えれば覚える程、どんどん知識が増えて楽しくなります」(那須)

「しんどい時もありますか?」(平野)

「たまにありますね、いや、ほぼ毎日ですかね(笑)。でも、水処理の過程でも、水の純度を維持するための目標の数値がいろいろとあって、目標を達成するために日々作戦を立てて、薬品の投量を変えて、自分の思っている値までいくと……嬉しくなります!」(那須)

「うまくいくことは多いですか?」(平野)

「なかなかうまくいかないです(笑)。まだまだ経験が少ないんで」(那須)

「じゃあ、熟練の先輩にもフォローしてもらいながら……」(平野)

「はい、フォローしてもらいながらですね。毎日が『勉強になったなあ』という感じで。教わったことを毎日ノートに書き込んでいるんですが、それがもう4冊くらいに……」(那須)

「熱心ですねぇ。あの、あれですね。那須さんは、テレビ番組『チューボーですよ!』(TBS系列)の中の人気コーナー“未来の巨匠”イン工場って感じですよね」(平野)

「いやいやそんな……(笑)」(那須)

◯品質管理課リーダー 杉島さんのお話

大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

 杉島さんは、水処理と排水処理施設を案内してくださった、水質管理のエキスパート(『大学生の社会科見学 vol.2』参照)。この道13年。那須さんの上司(先輩?)でもあります。

「13年目というと熟練の域ですね」(平野)

「そうですね、でも中堅どころです」(杉島)

「それでも中堅ですか」(平野)

「はい、上司にも、部下にも鍛えられてますよ(笑)」(杉島)

「この仕事においての一人前ってどんなレベルなんでしょう?」(平野)

「普通にオペレーションできるだけでは、一人前じゃないですね。新しい設備をつくる際、今できる最新のことをいかに採り入れて設計できるかどうか。それが、腕の見せどころです。あとはトラブルの時の解決の仕方とか」(杉島)

「どんなトラブルがあるんですか?」(平野)

「たとえば、濃い酸性液が排水施設に流れて来たとします。若手たちは排水を中和すれば問題が解決するという認識になりがちですが、そこを中和だけじゃないんだよ、その他の工程を踏んでいかないと最適な中和にはならないんだよ……って、テーブル実験をして見せるんです。今日だったらこの割合だよ、みたいな」(杉島)

「その判断基準はどのように学ぶんですか?」(平野)

「判断のための基本はあるんですが、日々濃度は異なっているので自分たちで実験して答えを出していく。それを肌感覚でつかんでいくって感じです」(杉島)
大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

「ローマは1日にしてならずですね」(平野)

「そうですねえ。たとえば、僕の頭の中にはえびの工場の地図もほぼ入っています(笑)。どの管がこの目の前のマンホールにつながっているかとか、水が今どこを通っているかとか分かるんです」(杉島)

「えっ、それはすごい」(平野)

「大事なことなんですよ。そういうことも頭に入るようになると、それぞれの機械が今後どれだけきちんと動くかもだいたい分かってきます。そうして初めて、定期的な検品や交換ができるんですよね。うちは機械が壊れてから修理するということはほとんどないですよ。異常が起きることを予測して、壊れる直前にメンテナンスするっていう良いサイクルできています」(杉島)

「普通は壊れてからじゃないと異常が分からなそうなのに……。ところで、杉島さんの得意分野ってなんですか?」(平野)

「やっぱり、排水処理ですかね。汚れた水を美しい水に戻していく仕事は奥深くて面白いです」(杉島)
大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

「ちなみにコカ・コーラの製品では何が好きですか?」(平野)

「コカ・コーラ ゼロですね」(杉島)

「みんなコカ・コーラは好きなんですか?」(平野)

「好きですね。うちの社員に人気がある製品って市場でも売れるんですよね。何がヒット商品になるか予測がつく(笑)」(杉島)

○柳工場長のお話

大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

 今回の工場見学を総じて取り仕切ってくださった、安心と信頼の柳工場長にも、改めてじっくりとお話を伺いました。柳工場長は、この道30年の大ベテランです。

「先ほど杉島さんが、まだまだ中堅です。と言っていましたよ」(平野)

「そうですか(笑)。彼は品質管理のエキスパートですよ。あんなに頼れる人はいない。排水の処置も今日自分でやってたし」(柳)

「じゃあ謙遜していたんですね。今回取材させていただいた皆さんって、人柄がよくて、まじめで、そして自分に厳しいと思いました。製品の安心・安全の管理という、常に『100点』を求められる世界だからなのか、決して現状に満足しないというか。そのようなタイプの人を今回のような職場にあえて配属しているのか、それとも職場があのようなタイプに育てたのか、どちらなんでしょう?」(平野)

「あとの方でしょうね、役割を与えるから、自分に厳しい人物にならざるをえないというか。あとは環境。えびの工場は社員にとって良い場所ですよ。新しい工場なんで、新設の設備も多いですから。だからこそ、仕事に貪欲になれるというか、知識や経験を吸収できる場所です」(柳)

「逆に言うと、このような仕事は、満足してしまったら終わり、ということでしょうか」(平野)

「そうですね、いかに100%に近づけるか、という仕事です。100%を達成しなければいけない、でも、100%っていうのはありえない。イチロー選手がどんなに結果を残しても100%満足するスウィングが滅多にないように、泳いでも泳いでもゴールに辿り着けないみたいなところがあります。でも、ある程度の到達点はあって、自分たちがクリアできる目標を設定して、それを達成するようにするんです。すると次の目標がまた出てくる。だから、毎年毎年ハードルは上がっていますね。少し前に進んでも、3歩下がったりね。簡単じゃないんですよね」(柳)

「マインドを向上させていくためには、何が重要なんでしょうか」(平野)

「マインドを向上させてくれるような人を育てることです。だから杉島くんにもそれを頑張ってもらいたい(笑)」(柳)

「最新の工場とはいえ、やはり人が大事……」(平野)

「いやいや、もう人ですよ」(柳)

「このえびの工場に勤務の方は131人と、かなりたくさんの方が関わっているわけじゃないですか、さらりとおっしゃるけど、人の管理も大変ですよね」(平野)

「大変ですよ。だから何ごともない1日がどれだけすごいかって私は思います。今日1日何にもなかった……という日は、みんな相当頑張ったんやなって」(柳)

「すごく巨大なものを動かしているということですね」(平野)

「機械が動いてることが当たり前のように見えるけど、当たり前にするためにみんな一生懸命走り回っていますから」(柳)

「なるほど……大変勉強になりました。どうもありがとうございました」(平野)
大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた

 工場長は最後の最後まで笑顔で私達を見送ってくれました。

 正直に言えば、今までコカ・コーラ社の製品といえば大量生産で、それは巨大自動化工場から生まれるもので、人の血の通う隙のないものだと思っていました。 だけど、今回の見学を通して、その見方は大きく覆されました。

 工場には、熱く仕事に向き合う職人の姿があったのです。それは街角の和菓子屋さんが厨房であんこをつくるのとなんら変わらない。一つひとつの飲料に、彼らのこだわりと愛がしっかりと宿っているのが見えました。

 こうして工場から人の顔が見えた時、柳さんが、杉島さんが、那須さんが、一生懸命につくった飲み物なのだと思う時、コカ・コーラは一層魅力的な製品になって私の思い出を塗り替えていきました。柳工場長にそんな思いを伝えたら、こんな言葉を返されました。

「そうですよ。私たちの仕事は和菓子屋さんと同じ。ただ、つくるスピードが違うだけ。何千倍の速さで動いてるから(笑)。それでね、私たちは何千本とつくりますけど、お客さんにとっては“目の前の1本”ですからね。そこをいつも考えながらやりなさいって私は30年言われてきたし、これからもずっとそうなんですよ」

(おしまい)

大学生の社会科見学vol.3
工場で働く人たちの本音に迫ってみた