文=テッド・ライアン(ザ コカ・コーラ カンパニー ヘリテージ・コミュニケーションズ担当ディレクター)

 

コカ・コーラ社の“チャレンジ精神”を象徴する1枚の写真

上の写真に写っているのは、1928年のアムステルダムオリンピック競技大会のスタジアム付近に設置された「コカ・コーラ」の売店です。ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)はこのとき初めてオリンピックの公式スポンサーを務め、会場の周辺で「コカ・コーラ」を大量に販売。大会を大いに盛り上げました。写真に写っている3人の販売員は「コカ・コーラ」のロゴが入ったジャケットと帽子を身に着けています。また、スタンドの前面には、オランダ語で「おいしくて、さわやか」と書かれています。

コカ・コーラ カンパニーでアーカイブ庫(*歴代製品や関連アイテムといった資料の保管庫)の責任者を務める私は、これまでに幾度もこの写真を目にしてきましたし、社内外で「コカ・コーラ」にまつわるプレゼンテーションを行う際にも、頻繁に使用してきました。コカ・コーラ社にとってこの写真は、記念すべき大会の様子を伝える歴史的資料としてだけでなく、コカ・コーラ社の“チャレンジ精神”を今に伝える1枚として、とても大事な意味を持っています。この写真のどこに“チャレンジ精神”が現れているか? 実は1928年当時、「コカ・コーラ」はオランダでは本格的に販売されていませんでした(オランダで『コカ・コーラ』の流通が始まったのは1930年のことです)。つまり、写真の中の「コカ・コーラ」は、このオリンピックのためだけに、米国の代表選手らとともに船で大西洋を渡ってきたものなのです。それだけに、当時のコカ・コーラ社社員の意気込みと冒険心に思いを馳せずにはいられません。

 

■売店復刻プロジェクト、始動

私は2016年に、オランダのコカ・コーラ社のメンバーからある打診を受けました。アムステルダムのオリンピックスタジアムと共同で計画している記念プロジェクトに、本社アーカイブ庫の責任者として協力してほしいという相談です。このスタジアムは数十年前に取り壊しの危機に見舞われながらも、「オリンピックのレガシーを後世に残したい」という市民の強い意志により存続が決定。今でもスポーツ競技場として現役で使われている、歴史ある施設です。その部屋の一つを、オリンピックと「コカ・コーラ」の役割を伝える展示スペースにつくり替える構想が持ち上がっていたのでした。

話を聞いた私は、さっそくアムステルダムに飛びました。そして、プロジェクトの現場となるスタジアムの一室で、コカ・コーラ社とスタジアムのプロジェクトメンバーに当時の写真を見せながら、1928年のオリンピックでコカ・コーラ社がどんな活動をしたのか説明したのです。何枚もの写真を見せながら解説しているうち、この売店の写真にたどり着きました。そのとき、突如、素晴らしいアイディアがひらめいたのです。

「この売店を丸ごと再現してみるのはどうだろう……?」

過去の広告アイテムの多くはアーカイブ庫に保管されていますから、それらを活用して、当時の様子を再現することは可能なはず。その象徴として売店があれば、この部屋を訪れたお客さまに、まるで1928年に迷い込んだかのようなリアルな体験を提供することができると、私はすぐに確信しました。

幸い、プロジェクトメンバーもこのアイディアに強く賛同してくれて、プロジェクトは走り出しました。

 

■モノクロ写真から売店の色を推理

最初に突き当たった壁は、“色”でした。というのも、写真はモノクロのため、オリジナルの色がこの写真では分からないのです。

売店を再現するにあたり、外部の事務所に図面の作成を依頼したのですが、彼らは「『コカ・コーラ』の売店であれば、赤色に違いない」と考えたようです。最初に送られてきた図面では、構造物全体が「コカ・コーラ」を象徴する鮮やかな赤色で塗られていました。

しかし、1928年当時の「コカ・コーラ」の広告を見てみると、赤色がキーカラーの一つではあったものの、それ以外にも深い緑色、鮮やかな黄色、そして白色を組み合わせて使われていることが多かったので、安直に赤一色と決めつけることはできないのです。私はこの点を理解してもらうため、ザ コカ・コーラ カンパニーで作成された1923年、1928年、1936年の色彩ガイドラインとともに、現在手に入る塗料から適切なサンプルを選び出して提供しました。

アーカイブ庫の責任者である私といえども、売店の色遣いに関する確実な情報を持っていたわけではありません。でも、私たちプロジェクトチームのメンバーは、売店の壁の色は緑ではないかと推測しました。というのも、写真に一緒に写っている右側の丸い広告アイテムの明るさが、売店の壁の明るさと同じだということに気がついたからです。これは同じものが現存しており、その色が緑色であることが分かっています。一方、上下の「コカ・コーラ」ロゴの周囲(壁とはわずかに明るさが異なるのが、写真から伝わるでしょうか?)には、「コカ・コーラ」のブランドカラーである赤色が使われただろうと考えました。

これらの推理に基づいて図面は修正され、プロジェクトは次の段階=売店の中にある広告などのアイテムを探す作業に入りました。アーカイブ庫から対応するアイテムを探し出してくれたのは、ザ コカ・コーラ カンパニーで展示イベントを担当するギニー・ヴァン・ウィンクルです。さらに、売店に配置するアイテムを保護するため、カウンターや壁に安全に固定できるように特別な台を作成しました。

いちばん苦労したのが、販売員が腕にかけている「コカ・コーラ」が入ったケース探しです。残念ながら同一のものを見つけることができなかったため、1930年代に使われていた類似品を使用することにしました。すべてのアイテムがそろうと、私たちはそれらを注意深く梱包し、アムステルダムに向けて送り出しました。

 

■ついに当時の姿が完全再現!

2016年9月、展示公開に向けた会場設営のために、私は再度アムステルダムを訪れました。“1928年ルーム”と名づけられたスタジアムの部屋に足を踏み入れた私は、感激のあまり言葉を失いました。売店は私が想像していたものと寸分たがわない姿でそこにあり、「コカ・コーラ」とオリンピックのパートナーシップを伝える周囲の展示とも、完璧に調和していたのです。

上の写真が、完成した売店です! 素晴らしい完成度だと思いませんか? 私はこれまでザ コカ・コーラ カンパニーで数々の面白いプロジェクトに関わってきましたが、今回はその中でもトップクラスの出来栄えだったと自負しています。