(写真提供=エミリー・ファン

次世代リーダーのためのサミットとして世界最大級の規模を誇る「One Young World」。コロンビアで開催された2017年の第8回大会には、194ヵ国から約1,300人が集まりました。その中には、日本コカ・コーラの3人の“ミレニアル社員”も。地球の裏側で、彼らはいったいどんな体験をしたのでしょうか?

1980年代から2000年代初頭生まれの、「ミレニアル世代」の価値観や働き方に迫る連載企画の第2弾です。

(前回記事はこちら

文=香川誠
写真=村上悦子

 

■ソーシャルメディアを使えば、個人の力で社会を動かせる

 2017年10月にコロンビアの首都ボゴタで開催された次世代リーダーサミット「One Young World」に、日本コカ・コーラから3人の社員が参加した。One Young World の日中のプログラムのほとんどは、社会変革に挑むさまざまなゲストスピーカーのスピーチを聴くことだ。3日間の大会期間中、彼らは1,300人の参加者とともにステージに耳を傾けていた。

 経営戦略本部のエミリー・ファン(24)は台湾出身。アメリカのバージニア州立大学院でビジネスアナリティクスを学んだのち、「グローバル企業なら会社と一緒に自分も成長できる」と考えて日本コカ・コーラに入社した。One Young Worldに参加した理由について、台湾で覚えたという日本語でこう答えた。

「私は普段、消費者の嗜好を分析する仕事をしています。これから消費が活発になるミレニアル世代の若者と一緒にブランドを育てていくためには、日々の仕事とは違うところからインスピレーションを受けるのがいいと思いました」(ファン)

エミリー・ファン

 

 ファンはOne Young Worldで、ソーシャルメディアのインパクトの大きさを再認識したという。印象に残った話の一つは、製薬大手のジョンソン・エンド・ジョンソンが行っているチャリティ活動。ユーザーが専用アプリで写真を投稿すると、1枚につき1ドル、同社がユーザーに代わり寄付をするというものだ。企業が社会貢献活動にソーシャルメディアを活用し、消費者を巻き込む仕組みをつくっていることに、彼女は感銘を受けた。他にも、個人の力が社会を動かした事例のスピーチもあったという。

「貧困にあえぐソマリアに衣服や食料を届けるため、あるフランス人男性が募金を呼びかける動画をつくって、それをソーシャルメディアで流しました。やがて募金が集まったところで、彼がTwitterで航空会社に直接メッセージを送り、物資を運ぶ相談をしたところ、その会社がソマリアへの直行便を運行してくれたんです」(ファン

 この後いくつか紹介するが、One Young Worldではたくさんのシリアスなスピーチもあった。そのような話を聴く中で、彼女は「難しい問題に対して諦めない心を持つ」ということの大切さを知った。しかし、それだけでは世の中は動かない。それに加えて必要なのは、「勇気」だという。

「自分のことをストーリーにして人前で語るのは勇気がいることだと思います。登壇した人たちの勇気に、私は涙が止まりませんでした。周りの人たちもみんな泣いていた。ものごとには両面がある。表からは見えない裏側にも、必ずストーリーがあります。自分の目線と他人の目線は違うかもしれないということを、常に心にとどめておきたい」(ファン

One Young Worldの様子。
第7代国際連合事務総長のコフィ・アナン氏ら、数々の著名人も登壇した
(写真提供=エミリー・ファン

 

■「目的」を意識し、手段は柔軟に選ぶということ

 マーケティング本部の越智麻央子(30)は、日々の業務でたくさんのアウトプットを求められる一方で、インプットの時間が足りていないと感じていた。そこで、自分の知らない世界のことを知りたいと思い、One Young Worldに参加した。

「インドでは、8分に一人の女性が、人身売買目的で誘拐されていると言われます。誘拐された女性は、24時間以内に帰ってこなければ絶望的。こういうことが起こっているなんて、私は知らなかった。この問題を広く世の中に認知させ、問題意識を持ってもらうために立ち上がったのが、フェイスブック社でした。24時間で投稿が消えるInstagramの『ストーリーズ』という機能を使って、誘拐された女性が24時間の間にどんな目に遭うかを伝える広告を作成し、このような悲惨な事件の現状を世界中の多くの人に伝えるキャンペーンを、Justice &CareというNGOと共に展開したのです。身近なメディアを用い、かつ、人々の想像力をかきたて感情に訴えるキャンペーンには、私も見習うべきところがありました」(越智

越智麻央子

 

 ティーンや若者向けのデジタルマーケティングを担当している越智は、今の若い世代の間で何が流行っているのか、トレンドをキャッチし続けている。デジタル端末とアプリがあれば誰でもクリエイターやインフルエンサーになれる今の時代、ユーザーを巻き込むキャンペーンがより重要になっているという。フェイスブックの話は、扱う問題こそ彼女の仕事とはかけ離れているが、「人々の巻き込み方を考える」という点で共通している。

「ある経営者の方が、『ROI to ROP』と言っていました。これからの時代は、投資に対する利益率を表すROI(Return on Investment)よりもROP(Return on Purpose)。“Purpose=目的”に基づく対価が大事なのだと。平和な日本で暮らしていると、なんで生きているのか、どんな世界を望んでいるかということを、あまり考えなくなります。私たちは、本当はもっと、何のために行動するのかということを考えなくてはいけないなと感じました」(越智

「目的」を意識して改めてスピーカーたちの話を聴く中で印象に残ったのは、アフリカの20歳代の医師の話だった。

「彼は医師でありながら、出産アプリを開発しました。妊婦の悩みごとに答えてくれるアプリです。『医者とは医療行為をする人である』と思いがちですが、『妊婦の安全』という目的のためであれば、手段は関係ない。自分で意味を考えながら行動しないと目的を見失ってしまうので、自分は何をすべきか、目的を明確にすることが大事だと改めて実感しました」(越智

 

■一人ひとりのポジティブさが組織を変える

 マーケティング本部の田代雅典(30)の参加理由は、「日常から離れ、自身を振り返るため」だった。

「会社にいると目の前の実務に追われてしまい、自分が今やっている仕事や自分の人生を俯瞰して考える機会がなかなか持てません。でも、このような国際会議に出席すれば強制的に一定期間仕事から離れることになるので、普段は触れることのないユニークな話を聞きながら、自分自身の仕事や人生を振り返り、これからのことを考えることができると思いました」(田代

 田代はマーケティング本部で、「コカ・コーラ」のブランドマネジャーを担当している。製品やパッケージなどの開発、広告キャンペーンなど、複数の専門チームの協力を得ながら、売り上げ目標を達成するための戦略を立てていく。視野が広くなければ務まらない仕事だ。

田代雅典

 

 田代が最も印象に残ったスピーチは、ストーカーによる「アシッドアタック」の被害に遭った女性の話。アシッドアタックとは、コロンビアなどの一部地域で頻発している、硫酸を使って相手を傷つける犯罪のことだ。

「ファッション業界で活躍していた彼女は顔に硫酸をかけられて、プラスチックの保護マスクをかぶる生活を余儀なくされました。でも彼女は被害者でありながら、この犯罪に対する問題意識を高めてもらうべく、自ら広告塔となり、マスメディアに出演し始めたのです。PRムービーをネットに流したところ大きなムーブメントになり、その結果コロンビアの法律にインパクトを与えるくらい、世の中を大きく変えました。ビジネスの力を使ってものごとをスケールアップさせる彼女の力強さが心に残りました」(田代

 振り返りをしながら話を聴いていた田代は、会場であることに気がついた。それは、その場の雰囲気が、一人ひとりの人間によってつくられているということだ。国籍も業界も職業も違う人たちが集まっているその会場の空気は、ポジティブで情熱的だった。

「自分も組織で働く人間として、会社全体にそういう雰囲気をもたらす人間になりたいと思いました。One Young Worldでは、若くてもみんな使命感を持っているのが印象的でした。誰かが言う『いいもの』ではなく、『自分には何がいいか』を自分の頭で考えている。私もそうでありたいし、昔に比べて日本でもそういう人は増えてきているように感じます」(田代

ここで出会った友人らとは、SNSなどで繋がっているという。
3人とも目的を持って参加し、大きな学びを得て帰ってきた
(写真提供=エミリー・ファン

 

■「どういう社会人でありたいか」を考えるべき

 One Young Worldは2010年の第1回ロンドン大会以降、世界のリーダー層や若者たちに大きなインパクトを与えてきた。これからOne Young Worldに参加するかもしれないミレニアル世代に向けてのメッセージを3人に求めた。

「壇上には、自分たちとは違うバックグラウンドを持つ人たちが上がります。今日の食べ物にも困るような国からもたくさん人が来る。そういう人たちに共感する気持ちを持って参加することが大事だと思います。昼間はスピーチを聴いてみんなで泣いて、ランチや夜の交流会はみんなで笑って。とにかくあの前向きな雰囲気を、国籍や言語の違いも関係なく、みんな一緒に肌で感じてみてほしいです」(ファン

「先入観を捨てて、フラットな状態でいたほうがたくさんのことを吸収できます。それに加えて語学も大事。先ほど目的の大切さを述べましたが、人生の目的について聞かれても、それを言葉にして説明するのは母国語でもとても難しいと思います。スピーチを聴く英語力も大切ですが、完璧である必要はないので、多くの人との共通言語である英語で自分を語れると良いと思いました」(越智

「どういう社会人でありたいかということを一度深く考えてから参加したほうが、より質の高い振り返りができると思います。そして大会中にはいろんな人と出会います。私もここで知り合ったドイツ人夫婦と、日本に帰国後に家族ぐるみの交流をしました。席が隣になれば、カジュアルに会話が始まる雰囲気なので、いろんな人との交流も楽しんでもらいたいですね」(田代

 次回のOne Young Worldは2018年10月。オランダのハーグで開催されることが決まっている。日本から参加するミレニアル世代の若者が、その体験を自分のキャリアに、会社に、社会に還元することを期待したい。

写真左から
●エミリー・ファン / 1993年アメリカ生まれ台湾育ち。米国の大学で気象学やビジネスを学んだ後、2016年に来日し、日本コカ・コーラ入社。経営戦略本部 コンシューマー&コマーシャルナレッジ&インサイツ コーヒーカテゴリ アシスタントマネジャー。コーヒーカテゴリ内の商品開発から、導入以降のさまざまな調査や消費者インサイトの発掘を担当。
●田代雅典(たしろ・まさのり)/ 1987年生まれ。大手消費財メーカーでのマーケティング職を経て、2015年に日本コカ・コーラ入社。マーケティング本部 炭酸カテゴリー コカ・コーラTMグループ マネジャー。「コカ・コーラ プラス」を担当。
●越智麻央子(おち・まおこ)/ 1987年生まれ。国内大手IT企業の営業職を経て、2014年に日本コカ・コーラ入社。マーケティング本部 IMC iMarketing マネジャー。デジタル領域の広告コミュニケーションの戦略・企画やSNSの運用を手がける。

 

*過去の連載記事
第1回 若手から会社を変えていく! 新プロジェクト「ミレニアル・ボイス」の全貌