「ワークライフバランス」に代わるコンセプトとして、しばしば聞かれるようになった言葉「ワークライフインテグレーション」をご存知だろうか? 仕事もプライベートも人生の大事な一部であるため、両者を分離してバランスを取ろうとするのではなく、統合(Integration)して双方の高い充実を目指そうという考え方だ。米国の西海岸を中心に広まったものだが、日本ではまだ定着しているとは言い難い。しかし、日本コカ・コーラのミレニアル世代(*)の社員の中に、その実践者を発見。4歳児のパパとして、グローバルヤングリーダーとして、仕事に育児に奮闘する彼の1日に密着した。

*ミレニアル世代……1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代を指す言葉。小さい頃からデジタル端末やソーシャルメディアに触れているので、「デジタルネイティブ」とも呼ばれ、ビジネスシーンに新しい価値観をもたらすのではないかと注目されている。

文=香川誠
写真=村上悦子

*過去の連載記事はこちら
第1回 若手から会社を変えていく!新プロジェクト「ミレニアル・ボイス」の全貌
第2回 キーワードは「巻き込む力」「目的意識」「ポジティブ」。グローバルサミットで見えてきた、次世代リーダーの共通項

 

■電話会議に子どもの声、は当たり前

 午前9時55分。Tシャツ姿のケン・リーが日本コカ・コーラ本社の玄関に現れた。毎週金曜日はTシャツで出勤すると決めているというが、今日は金曜日ではない。

「今日は密着取材をしていただけるということで、これを広めようと思って……」

 彼の胸には「Millennial Voices Japan(通称:ミレニアル・ボイス)」と書かれたロゴ。日本コカ・コーラの若手社員らで構成される、社内変革プロジェクトの名称だ。メンバーとして参加しているリーは、自宅からこのTシャツを着てきたらしい。「ワークライフインテグレーション」の実践者として、さっそくその一端(?)を見せつけてきた。

[“コカ・コーラ社流”ミレニアル世代の働き方 第3回]仕事とプライベートに境目は不要。新しい働き方「ワークライフインテグレーション」とは?

通りでたまたま会ったという「ミレニアル・ボイス」メンバーと一緒に出勤

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出社後、一日の予定をスマートウォッチでチェック。今日は会議が目白押しだ

 

 4歳の息子を保育園に送り届けてから少し遅めの出社をしたリーのこの日の最初の仕事は、この『Coca-Cola Journey』の打ち合わせ。IT部門に所属する彼は、ビジネス・サービス・マネジャーという肩書きでデジタルマーケティングやアプリケーションの開発管理などを担当している。ウェブサイトのプラットフォームを準備するのも仕事の一つだ。

「『Coca-Cola Journey』は各国のコカ・コーラ社ごとに掲載する記事の内容が異なりますが、サイトのプラットフォームは全世界共通です。そのため、プラットフォームの変更があるときは全世界で一斉に行われます。その際に日本の『Coca-Cola Journey』で行われるさまざまな調整を、私が中心になって進めています」

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今年初旬には、社内SNS「Workplace」の導入も主導した。
メールよりも情報を発信しやすく、短文でのやり取りに向いているため、
社内コミュニケーションの量が増え、スピードも上がった

 

 12時のランチタイム。出張で日本にやってきた韓国コカ・コーラの女性社員とランチミーティング。彼女は以前に日本コカ・コーラで働いていたことがあり、顔なじみだ。近況報告をした後、互いに今抱えている問題の解決策を求めて情報交換をした。

 午後1時からはアジアパシフィック地域のマーケティング担当者らと電話会議。天気が良かったので、気分転換にテラスからネットにつないだ。中国やインド、オーストラリアなどのコカ・コーラ社員が出席した会議は20分ほどで終了。「日本人は会議が長い」とよく言われるが、「会議はクイックに」というのがここでは共通認識のようだ。

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デジタルツールの充実、ネットワークの発達のおかげで、仕事は場所を選ばなくなった。
出社必須の会議がない日は、在宅勤務にすることもあるという

 

 この日は昼間の会議だったが、グローバルに仕事をしているリーには、時差の関係で夜間に電話会議が入ることも珍しくない。育児中のリーは、自宅からネットにつないで出席する。

「今週は3回、家で会議をしました。その間は妻に子どもを見てもらっていますが、部屋のドアに鍵が付いているわけではないので、たまに子どもが入ってくることもあります。でも、他の国のメンバーも似たような感じ。互いに理解し合っているので何の問題もありません。むしろ子どもの声が聞こえるくらいのほうが、みんなリラックスできていいんですよね」

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自宅で電話会議に出席するリー。海外との時差のため深夜12時を回ることも(家族撮影)

 

 この日は午後2時と3時にも会議があった。複数のプロジェクトを同時に抱えているが、優先順位を付けながらうまくこなしている。仕事中、疲れた様子などは一切見せない。先輩社員ともフランクに会話を交わし、むしろ笑顔でいることのほうが多いくらいだ。

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午後2時、IT部門のミーティング。グローバルなシステム変更に日本でどう対応するかを協議

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午後3時、「ミレニアル・ボイス」のチーム会議では、Tシャツを仲間から褒められる。
リーに密着して驚いたのは、どの会議も予定時刻より早く終えること。
「何事もクイックに」というモットーを有言実行している

 

■家事も仕事もきっちり分担。その姿を子どもにも見せる

 家でも仕事のことを忘れず、会社でも家族のことを忘れないリー。共働きの妻とは、いつでも連絡を取り合えるようにしている。オンラインで夫婦のカレンダーを共有しているほか、携帯電話のGPS機能で互いの居場所もオープンに。家事と育児の分担はどのようにしているのか。

「うちは『家事は半分ずつ』が原則。妻が洗濯機を回したら、僕が洗濯物を干します。僕が子どもを風呂に入れたら、妻が着替えを担当します。料理は妻が得意なのでまかせていますが、その代わりに食器洗いは僕がやる。夫婦で一つのチームだと思っています。共働きだった両親も、同じようにしているのを僕はずっと見てきました。自分もそういう家庭を築きたいと思ってやっているだけで、これが特別なこととはまったく思っていません。ただし、家事をしている姿を子どもに見せるようには意識しています。男女関係なく、仕事も家事もできるんだよということを、子どもに伝えたいから」

 マレーシアとシンガポールで少年時代を過ごしたリー。ワークライフインテグレーションという言葉は最近生まれたものだが、家事を分担しながら互いの仕事に取り組む両親を見てきた彼にとっては、ごく普通の働き方、余暇の過ごし方なのかもしれない。

「気をつけているのは、食事の時間に仕事のメールを見たりしないということですね。そこは家族の時間なので。ただし、仕事はしなくても仕事の話はします。仕事は人生の大事な一部で、自分の生活と分けるものではないからです。妻の仕事の話も聞きますし、子どもにも『今日は保育園で何があった?』と聞きます。子どもにとっては保育園が仕事ですから」

 午後5時半。リーの退社時刻がやってきた。妻とも連絡を取り合って、子どもの待つ保育園で合流予定だ。「どっちか一人が行けばいいのでは?」と思うところだが、「二人いたほうが子どもが喜ぶから」という理由でそうしているらしい。

「子どもはどんどん大きくなる。たまに出張などで数日会わないだけでも、『成長したな』と感じます。僕は子どもの成長を全部見ていたいから、少しでも一緒にいられるように、仕事を頑張ろうと思えるんです」

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まだ明るいうちに退社。「これで1日の仕事が全部終わり」というわけではないが、
働く時間と場所を自分でコントロールすることが、
リー流のワークライフインテグレーションの秘訣なのだ

 

 リーには、今とても楽しみにしていることがある。マレーシアに住む祖母が、もうすぐ100歳の誕生日を迎える。そのお祝いに家族みんなで駆けつけるのだ。外国で暮らす、自分の妹や弟たちとも2年ぶりの再会となる。

「僕にとって家族は生きる原動力。いつも、家族との時間をいかにつくるかを考えて仕事をしています。それはこれからも変わりません」

 最近の家での大きな仕事は子ども部屋づくりというリーは、息子の成長を思い描きながらそう語るのだった。

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ケン・リー / 1982年マレーシア生まれ。小中学生時代をシンガポールで過ごした後、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学を卒業。2004年に来日、慶應義塾大学大学院に進学し、博士(工学)を取得。大手保険会社を経て、2016年、日本コカ・コーラに入社。デジタルマーケティングテクノロジーなどを担当。グローバルプロジェクトにも参加している。