1960年代当時につくられた品質の良い普遍的なデザインを現代に再認識させる、
という意図の下に生まれたプロジェクト「60VISION(ロクマルビジョン)」。
同プロジェクトから生まれた石塚硝子のブランド「アデリア60」の
立ち上げ10周年を迎える今年、
「アデリア60ルックコーラグラス」の新色が発表された。
それは、コカ・コーラのシンボルである
「コンツアーボトル」のカラーに由来する“ジョージアグリーン”。
同製品誕生の経緯を、ナガオカケンメイが語った。

文=星野一樹
写真=村上悦子


記念グラスの原料は「コカ・コーラのボトル」

 前回も述べたように、ルックコーラグラスは、石塚硝子がコカ・コーラを飲むために開発したグラスです。1970年代、飛ぶように売れたヒット商品だと聞いています。当時の喫茶店では、ずしっと重くてデコラティブなこのグラスにコカ・コーラを注ぎ、ストローを挿し、レモンを浮かべて、コースターを敷いてお客さんにサーブしていた。家庭で使われるグラスとは違った「よそ行きの服」のような位置づけのグラスなんですね。当時の人は、たとえばデートなどで外出すると、このグラスでコカ・コーラを飲んで楽しいひとときを過ごしたのでしょう。そのような意味では、とてもロマンチックで、歴史のある製品だと思います。

ナガオカケンメイが語る
「アデリア60ルックコーラグラス“ジョージアグリーン”の魅力」

このグラスは「アデリア60」(石塚硝子のガラス食器ブランド『アデリア』の復刻ライン)のプロジェクトで、2003年に復刻され、これまで限定カラーも含めて19色がつくられてきました。そして、「アデリア60」10周年を迎える記念年に発売される20色目が、コカ・コーラの象徴のコンツアーボトルそのものの色である “ジョージアグリーン“ なのです。

 20色目のジョージアグリーンが、コンツアーボトルと同じ色を再現できた理由は、何度も使用されてリタイアすることになったコンツアーボトルそのものを100%原料として使っているからです。もちろんリサイクル原料使用ではあっても、その分、この製品は丁寧につくられています。硝子職人によるプレス成形によって、ひとつずつつくられているのです。ルックコーラグラスを1個つくるのに、コンツアーボトル約1本分の原料を使用してもいます。ですから量産は不可能で、原料が集まり次第、不定期で生産と販売をしていく流れとなります。

ナガオカケンメイが語る
「アデリア60ルックコーラグラス“ジョージアグリーン”の魅力」

 

ルックコーラグラスがデザイン的に優れている理由。

アデリア60ルックコーラグラス“ジョージアグリーン”の価格は2,500円です。決して安いとは言いませんが、手作業でつくったことを考えると、特別高いものでもないと思います。何と言っても、その「思想」が素晴らしい。このグラスは、コカ・コーラと石塚硝子の強い環境意識があったからこそ実現したプロジェクトです。永く使い続けられるような過去のプロダクトのデザインを復刻していた企業=石塚硝子が、環境のためにコンツアーボトルを何度もリサイクルして使用していた企業=コカ・コーラに原料を提供してもらい、しかも、職人が手作業でつくっている。これはとても粋だし、かっこいい態度だと思いますし、もっと言えば、それらの思想が時代を象徴したシンボリックな製品にしているのだと思うんです。だから、このグラスが提供する付加価値に対する対価としての2,500円を、僕は高いとは思いません。

 デザインと品質が良いのは言うまでもありません。美しい色、よく見ると、職人の手づくりであることがリアルに伝わってくる気泡や金型の継ぎ目の存在、手にずしりと感じられる重量感。もちろんパッケージのデザインにも拘っています。コカ・コーラと協働することでデザインを完成させたこのパッケージには、コカ・コーラのブランドカラーである赤をベースに、アデリア60のロゴマークと本家コカ・コーラのロゴマークが並んでいます。


ナガオカケンメイが語る
「アデリア60ルックコーラグラス“ジョージアグリーン”の魅力」

コカ・コーラを「定番」にしたデザインの力。

 僕がコカ・コーラに魅力を感じるのは、ルックコーラグラスと同じで、「定番である」という部分です。日本は海外から輸入された文化や、世界のロングセラー商品に大きな影響を受けてきた国だと思います。たとえばジーンズはその最たる例だと思いますし、飲食の分野で言えば、コカ・コーラは代表格でしょう。これだけ流行の移り変わりが目まぐるしく、流行廃りの絶えない国で、飲料を永い間売り続け、定番化させるのはとても難しいことだと思います。グラフィック・デザインやプロダクト・デザインについてまったくわからない僕の母親であっても、コンツアーボトルを見れば、ひと目でそれがコカ・コーラだとわかる。これは凄いことだと思うんです。万人がコンツアーボトルを「美味しい飲料」のデザインだと認識しているのです。このデザインによって、世界中の生活者のテーブルの上の豊さの水準を上げているのだと思います。

 コカ・コーラのロゴマークも、流行に左右されない定番のデザインです。125年以上の歴史の中で、時代に合わせて、少しずつ何度もバージョンを変えてはいますが、コカ・コーラレッドを使用したインパクトはいつまでも変わりません。「定番」だから、そこにはいろんな人々のいろんな記憶が寄り添っています。たとえば10歳代で失恋した時の記憶とか、高校の下校時に飲んだこととか。コカ・コーラのロゴデザインを見ると、これまで生活のなかでのいろんな思い出が蘇るんです。それはなぜかと考えると、コカ・コーラのロゴデザインやコンツアーボトルのデザインが優れているために、僕たちの生活に自然に溶け込んだからでしょう。だから「定番」なんです。これこそ、僕たちの志向するロングライフデザインなのだと思います。

 「Long life design of Coca-Cola」の詳細はこちら
http://www.d-department.com/event/event.shtml?id=2164023002143949


◆プロフィール
ながおか・けんめい  /  デザイン活動家・京都造形芸術大学教授・武蔵野美術大学客員教授。
すでに世の中に生まれたロングライフデザインから、これからのデザインの在り方を探る活動のベースとして、47の都道府県にデザインの道の駅「D&DEPARTMENT」をつくり、地域と対話し、「らしさ」の整理、提案、運用をおこなっている。2012年より東京渋谷ヒカリエ「8/」にて47都道府県の「らしさ」を常設展示する日本初の地域デザインMUSEUMd47MUSEUM」を発案、運営。
主著に『D&DEPARTMENTに学んだ人が集まる伝える店の作り方」(美術出版社)、『ナガオカケンメイとニッポン」(集英社) など。www.d-department.com