東京2020オリンピック競技大会に向けて、最も活躍が期待される競泳選手の一人が、今井月選手です。高校1年生で出場したリオデジャネイロ2016オリンピックでは、惜しくも準決勝で敗退。しかし、着実に成長を続け、2018年12月に行われた世界短水路選手権では、女子100m個人メドレーで銀メダルを獲得しました。この春には、競泳界の名門・東洋大学への進学が決定しています。トップ選手らと切磋琢磨しながら、一段上のステージに向かって挑戦を続けている今井月選手に、リオで感じた課題、大学生活への期待、そして東京2020オリンピックにかける想いを聞きました。

文=柳橋閑
写真=松本昇大

 

■北島康介さんの金メダルを見て、テレビの前でガッツポーズ

──もともと水泳を始めたきっかけはお兄さんの影響だったそうですね。

今井 2つ上のお兄ちゃんが水泳をやっていたんです。それを見て、「私もやりたい」と親に言ったら、スイミングスクールへ連れて行ってくれました。ただ、そこは3歳以上でないと入れなかったので、3歳の誕生日まで待ちました。

──ということは、2歳のときには水泳をやりたいと思っていたということですか!?

今井 自分で始めたいと言ったらしいです。それで3歳の誕生日からスクールに通い始めて、幼稚園の卒園アルバムには、「将来の夢はオリンピック選手」と書いていました。

──早熟ですね。初めてオリンピックを見たのはいつだったんですか?

今井 北京2008オリンピックですね。100m平泳ぎで北島康介さんが世界新記録のタイムで金メダルを穫って、「何も言えねえ」とコメントした時です。私は当時小学2年生で、親とテレビを見ながらいっしょにガッツポーズしたのをよく覚えています。逆にいうと、オリンピックで記憶に残っているのはそのシーンだけなんですよ。

開催まであと500日!18歳、“夢”は“目標”へ。競泳・今井月選手が目指す東京2020オリンピック

この日インタビューを行なった「味の素ナショナルトレーニングセンター」には、
普段から練習でよく訪れるという

 

今井 北島さんに憧れて水泳を始めた選手は多いし、私が真剣にオリンピックを意識したきっかけも北島さん。永遠のレジェンドですよね。

北島さんとはその後、試合でいっしょになったり、練習の時にちょっと声をかけてもらったりはするんですけど、やっぱりオーラが違います。もし、仮に私がオリンピックで二大会連続金メダルを獲ったとしても、ああはなれない気がします。

 

■失意のうちに終わった人生初のオリンピック

──前回のリオデジャネイロ2016オリンピックでは200m個人メドレーに出場したものの、決勝進出を逃してしまいました。試合後、「4年後はこんな悔しい思いは絶対しないように頑張りたい」と言っていましたが、当時のことをあらためて振り返ってもらえますか?

今井 あの時は、とにかく日本代表に選ばれることに必死だったので、代表に決まってぽっかり穴があいてしまったというか……それだけで満足してしまった部分があったと思います。

代表に決まってからリオデジャネイロ2016オリンピックまで4ヵ月あったんですけど、ちょうど高校に入学した直後でガラリと環境も変わって、練習も思うように頑張れなかった。だから、オリンピック本番もあまり自信がない状態で迎えてしまったんです。それはよくなかったとすごく反省しています。

──初めての舞台で、プレッシャーも相当あったんじゃないですか。

今井 いや、オリンピックの空気に飲まれたとかではなくて、ただ単に練習が十分ではなかったという自覚があったから、自信がなかったんだと思います。

そのせいか、オリンピック自体についてはあんまり記憶がなくて、あっという間に終わって、気がついたら帰国していたという印象なんです。行っただけ、出ただけで終わってしまった感じで、応援してくださった方に申し訳ないことをしてしまったなと思います。

開催まであと500日!18歳、“夢”は“目標”へ。競泳・今井月選手が目指す東京2020オリンピック

 

──それだけオリンピックというのは難しいものなんですね。

今井 振り返ってみると、それまではあまり深く考えずに水泳をしてきました。ちょっと練習をすれば良いタイムが出たし、うまくいくことばかりだったような気がします。オリンピックに出ることが決まってから、身長が伸びて、体が重くなったことも重なり、悩むことが増えてきました。

でも、リオデジャネイロ2016オリンピックでの経験から、しっかり準備することの大切さを学んで、翌年の世界水泳選手権の時は、集中して練習しました。その結果、自信を持った状態で大会に入って、200m個人メドレーで決勝に進出し、自己ベストも更新できました。だから、練習して自信を持つことができれば、どんな試合でもやれると思うんです。

──15歳、16歳という年齢で、それだけの経験を積むことができたというのは、今後の競技生活を考えても大きな財産になりますよね。

今井 選考会からオリンピック本番まで、一通りのことを経験できたのはよかったですね。そもそも、オリンピックの規模や、世界中でどれだけの人が見ているのかということも、当時はよく分かっていなかったんです。帰国してメダリストが祝福されているのを見て、改めてすごいことなんだと気づきました。もし私が結果を出していれば、みんな喜んでくれたんだろうなあって。

だからその時、4年後は覚悟を決めてやらなきゃと思ったんです。東京2020オリンピックは出るだけじゃなくて、しっかり成績も残したいと思っています。

 

■学校生活は「めっちゃ青春してた」

──この春から上京して大学での新生活が始まりますね。高校の3年間を振り返ると、どんなふうに感じますか。

今井 高校に入学して最初の年の8月にリオデジャネイロ2016オリンピックがあって、そこからしんどいことや、うまくいかないことも増えて、3年生の時には代表落ちもしました。でも、そういう経験を乗り越えることで、ある意味強くなれたかなって思います。つらい時に立ち向かう精神を身につけられたかなって。

開催まであと500日!18歳、“夢”は“目標”へ。競泳・今井月選手が目指す東京2020オリンピック

「JOCオリンピック支援自販機」の前で。
食べることが大好きだという今井選手。
これから入学する東洋大学の学食がおいしいという評判と聞き、楽しみにしているそう。
飲み物は「紅茶花伝 ロイヤルミルクティー」に目がない

 

──学校生活で思い出に残っていることは?

今井 寮生活だったので、水泳部のみんなが学校でも練習でも寮でもずっといっしょで、本当に楽しかったです。日本代表の合宿や遠征から帰ってきて、みんなに会うと癒されました。

体育祭、文化祭、修学旅行も楽しかったですね。修学旅行の時は、直前まで競泳ワールドカップの遠征でいろんな国を転戦していた時期だったんですけど、そのスケジュールの隙間に奇跡的に修学旅行に行くことができたんです。シンガポールから帰ってきて、修学旅行で沖縄へ行って、その4日後からはスペイン合宿のためにまた移動。忙しかったけど、あの時は最高に楽しかったです。めっちゃ青春していたと思います(笑)。

──これからの大学生活で、チャレンジしてみたいことはありますか?

今井 インカレ(日本学生選手権水泳競技大会)がすごく楽しみですし、水泳以外の学生生活の部分でいうと、私服で通学できるのが嬉しいです。スケートボードの西村(こと)() さん、(あお)() さんと、日本コカ・コーラのイベントで一緒になってから連絡を取るようになったんですけど、「大学に入学したらご飯に行こうね」と言っていて。二人にストリートファッションを教えてもらいたいですね。

 

■東京2020オリンピックを見据えた新たなる挑戦

──進学先の東洋大学ですでに練習を始めているとのことですが、新しい環境はどうですか?

今井 北島康介さんを指導した平井伯昌先生が水泳部の監督をされていますし、萩野公介さんや大橋悠依さんといったトップ選手と一緒に練習させてもらえるので、すごく良い刺激を受けています。

レベルの高い選手についていこうとすることで、より自分を追い込めますし、チャレンジャーとして練習を頑張るのは楽しいですね。やっぱり練習の段階から競りあっていないと、試合で最後の勝負になった時に力を出し切れないと思うんです。

──来年の東京2020オリンピックに向けて、今はどんな課題に取り組んでいるんですか?

今井 試合ごとのタイムのアベレージを上げることですね。たとえば、大橋悠依さんを見ていると、いつも高いレベルを維持していて、小さい試合でも世界大会の決勝に行けるようなタイムを出すんです。それに対して、私の場合は大きい試合でしか力が出せない。そこが差だなと思うので、どんな状況でも常に世界のトップレベルのタイムで泳げるよう、今より1〜2秒ぐらいタイムのアベレージを上げられるようにしたいと考えています。

──自国開催という部分は意識しますか。

今井 家族や友だちも応援に来てくれると思うので、みんなの目の前でこれまでの恩返しをしたいな、という気持ちがあります。

オリンピックに出るには、まず来年4月の日本選手権で派遣標準記録(*1)をクリアして代表に選ばれなければいけないので、オリンピック本番よりもむしろその時のほうが緊張すると思います。でも、タイムのアベレージを上げられるよう練習を重ね、しっかり結果を出して日本代表に入りたいです。そして、そこから集中を切らさずに今度は自信を持って東京2020オリンピックに臨みたい。

海外で開催されるオリンピックより注目度も上がって、応援してくださる方も多くなるはずなので、プレッシャーがないと言ったら嘘になります。でも、自信があれば、プレッシャーすらも力に変えられるはずです。これから1年間しっかり練習と経験を積んで、技術的にも、精神的にも成長できたらと思っています。

*1 派遣標準記録……公益財団法人日本水泳連盟が設定した、国際大会へ選手を派遣する際の独自の選考基準。主要国際大会の優勝者のタイムなどを参考に設定されている。

開催まであと500日!18歳、“夢”は“目標”へ。競泳・今井月選手が目指す東京2020オリンピック

いまい・るな / 2000年生まれ、岐阜県出身。愛知県豊川高校を卒業し、2019年4月より東洋大学に進学する。日本コカ・コーラ所属。兄の影響で3歳の頃から水泳を始め幼少期から頭角を表した。2015年4月、日本選手権200m平泳ぎで日本中学生記録と世界ジュニア記録を更新、同年8月の全国中学校水泳競技大会で平泳ぎの100mと200mで3年連続2冠を達成した。高校1年生の時に出場したリオデジャネイロ2016オリンピックでは、200m個人メドレーで準決勝まで進んだが全体の15位に終わり決勝進出を逃した。現在は東京2020オリンピックを目指し練習に励んでいる。