1928年のアムステルダム大会から90年以上にわたり、オリンピックを応援し続けてきたコカ・コーラ社。来る東京2020オリンピックでも、日本コカ・コーラでは、専任のチームが組織され、開催に向けた取り組みを進めています。最終的に約60人の規模になるこのオリンピック専門チームは、複数のチームに分かれ、まるでひとつの会社のように機能しています。各チームにはどんな人たちが働き、どんな課題に取り組んでいるのか。『Coca-Cola Journey』編集部では、各チームの活動を取材していくことで、オリンピックを応援し続けてきたコカ・コーラ社の思いや取り組みを紹介します。記念すべき第1回は、ゼネラルマネジャーの髙橋オリバーが登場。今年の春に不慮の事故によって両目の視力を失いながらも、今もリーダーとして全体を統括するオリバーに、日本コカ・コーラの東京2020オリンピック専門チームの全貌について聞きました。

文=『Coca-Cola Journey』編集部
写真=村上悦子

 

■東京だけでなく、日本全体を盛り上げるためのチームづくり

──日本コカ・コーラにおける東京2020オリンピック専門チームの結成は、いつ頃だったのでしょうか?

髙橋 2016年8月です。最初は私一人でした。

──最初からある程度の人員をそろえてスタートしたのではなく?

髙橋 そうです。たった一人から始まり、僕が各部門を担当するコアメンバーをリクルーティングしていきました。現在は約50名が関わっています。最終的なコアメンバーは約60名になる予定で、ここにいわゆる大会会場のオペレーションスタッフも加わると、総勢約1200名ほどのチームになります。

──かなりの大所帯ですね。

髙橋 これはチームミーティングのときに必ず言っているのですが、僕はこのチームを“ドリームチーム”だと思っています。参加メンバーはスポーツビジネスの経験者に限らず、本当にいろんな業界から来ていて、それまで全然違う業務をやっていた人もいるのです。でも、だからこそみなさん非常に強い思い入れを持って参加している。自分の持っている能力をオリンピックで最大限に発揮したい人々の集まりなので、すごいパワーで取り組んでくれています。

──メンバー選抜の基準はあるのでしょうか?

髙橋 僕はフィーリングを一番大切にしています。とにかく東京2020を成功させるために、120%の力を注ぐことができる人を集めたつもりです。実はチームを結成するにあたっては、僕は当時の日本コカ・コーラの社長と人事部長と、「日本のコカ・コーラシステムの将来を担う人材育成の場にする」ということを約束しました。そのために初めての試みも行なっています。たとえば、今回はボトラー社であるコカ・コーラボトラーズジャパンからの出向メンバーによるチームをつくりました。これはグローバルでも例がなかった取り組みなのですが、僕は大成功だったと思っています。

日本のコカ・コーラシステム全体のためにオリンピックというアセットを活用していくには、“TOKYO 2020”ではなく、”JAPAN 2020”として考えていかなければなりません。だから、「東京だけでなく、日本全体をどうやって盛り上げるのか?」という視点で議論します。その点、各地のボトラー社の方々というのは、もっとも消費者と近いところで仕事をしています。その人たちが何を求めているのか知らずに、日本全体を盛り上げるようなオリンピックのプログラムを考えることはできないと思ったのです。

[日本コカ・コーラ オリンピック専門チームの仕事の流儀 第1回]オリンピック専門チームが目指すゴールとは?──ゼネラルマネジャー 髙橋オリバーインタビュー

 

■東京2020オリンピックで残したい“レガシー”はこう誕生した

──コカ・コーラ社はオリンピックのワールドワイドパートナー、ならびにパラリンピックのゴールドパートナーとして、東京2020オリンピック・パラリンピックに向け、「いつでもどこでも手に入れられる製品ラインナップの提供」「サスティナビリティー活動の推進」「オリパラならではの記憶に残る特別な体験の提供」という3つの方向で、レガシーを残すと宣言されています。このコカ・コーラ社が掲げる“レガシー”について、詳しく説明していただけますか?

髙橋 僕が最初に課せられた大きな目標として、当時のコカ・コーラ アジアパシフィックCFOだったジョン・マーフィーに言われたことがあります。「今までのコカ・コーラ社のスポーツアセットの活用方法はすべて忘れてください。あなたの仕事はオリンピックというプラットフォームを使って、次世代のスポーツアセットの活用方法を考えることです」と。あまりに大きな話で、そのときは「どうしよう」と思いました。

とにかく今までとは違うことを考えないといけない。そこで取り組んだのは、レガシーをつくるにあたって、従来になかったマネジメント層で議論を重ねることでした。各地のボトラー社の方々に加わってもらい、日本コカ・コーラというマーケティングを担う部門と、現場を知るボトラー社の方々の意見を聞くことで、今までにない視点でレガシーを考えてみようと思ったのです。結果として、双方から上がってきた意見はほぼ一緒でした。これには感動しましたね。

──それはどういった意見だったのでしょうか?

髙橋 大きく言えば、「消費者目線をいかに日本のコカ・コーラシステムに浸透させるか」というものです。その課題を克服するために、オリンピックというアセットを使おうという発想を、上層部も現場も持っていました。これがわかったことで、僕は日本のコカ・コーラシステム全体でレガシー達成に向かっていくことができると確信しました。これまでいろんな企業のマーケティング活動を見てきましたが、現場と方針が一致しているところはなかなかありませんでしたから。

──なるほど。レガシーという言葉からは“記念碑”のような取り組みをイメージしがちです。しかし、コカ・コーラ社にとっては、オリンピックの活動を通して企業の課題を克服することで、世の中に新しい価値を残すことを“レガシー”と呼んでいるわけですね。

髙橋 そういうことです。よく誤解されるのですが、レガシーとは「2020年までに売り上げを何%伸ばす」というものではありません。2030年、2040年になったときに振り返って、「2020年にこんな取り組みがあったから、今のコカ・コーラ社はこうなっているんだ」とわかるものです。その意義を社内で見出だせなければ、スポンサーシップを続けていくことは難しい。つい最近、2032年までの契約延長も発表されましたが、これもコカ・コーラ社が各国でレガシーを達成してきたから、オリンピックをサポートすることには意義があると判断しているのだと思います。僕らもこの流れを継承していきたいですね。

[日本コカ・コーラ オリンピック専門チームの仕事の流儀 第1回]オリンピック専門チームが目指すゴールとは?──ゼネラルマネジャー 髙橋オリバーインタビュー

 

■スポーツイベントに関わり続ける理由は“一体感”と“達成感”

──ところで、オリバーさんは日本コカ・コーラに入社される前から、一貫してスポーツビジネスに関わってこられたそうですね。

髙橋 僕はずっとスポーツの世界で生きてきました。学生時代は水泳に本気で取り組み、オーストラリアの大学に留学もしました。大学卒業後はリーボックジャパンに入社して、PRや製品のマーケティングを担当した後、アスリートとのスポンサーシップ契約などを行うスポーツマーケティングを担当。それからFIFAに移って2002年の日韓共催ワールドカップに関わらせていただいたことで、スイスのFIFA本部に来ないかという話をいただき、2012年まで10年ほど本部のマーケティング担当を務めました。

──FIFAからなぜ日本コカ・コーラに?

髙橋 FIFAを退職したあと、僕は日本に戻ってナイキジャパンのスポーツマーケティングを担当することになりました。そのときにちょうど、FIFA時代の上司がアメリカのコカ・コーラ社でIOCの担当をすることになり、彼女のほうから東京2020オリンピックに向けて、日本コカ・コーラのオリンピック専門チームを率いることができる人を探しているという相談があったんです。ナイキジャパンにいてもオリンピックに関わることになるとは思っていたのですが、せっかくならど真ん中でやってみたい。そう思ってゼネラルマネジャー職に応募させいただき、今に至っています。

──オリバーさんにとってスポーツビジネスの魅力とは?

髙橋 達成感ですね。一度味わうとやめられない。オリンピックやワールドカップのように、プロジェクトの始まりと終わりがはっきり見えている仕事って、そんなにないですよね。でも、スポーツイベントではいろんな背景を持った人たちがチームとして集まり、決められたゴールに向かってひたすら突っ走る。フィニッシュラインを超えるまではクタクタなんですけど、みんなでやり遂げたときの一体感がすごくて、「これをまたやりたい!」と思うんです。

[日本コカ・コーラ オリンピック専門チームの仕事の流儀 第1回]オリンピック専門チームが目指すゴールとは?──ゼネラルマネジャー 髙橋オリバーインタビュー

 

■視力を失ってもオリンピックは待ってくれない

──先ほどレガシーについて説明していただきましたが、オリンピックを盛り上げる施策として、「東京」あるいは「日本」ならではという点で意識されていることはありますか?

髙橋 やはりデジタルアクティベーションです。特に自動販売機は日本市場ならではのものです。それに日本には「Coke ON」という独自のアプリケーションもあります。これらの活用次第では、非常に面白いことができると考えています。まだ具体的に発表はできないのですが、海外でも例のないコミュニケーションを提供できると思います。

──東京2020オリンピック専門チームとしては、今は活動全体でどのフェーズにいるのでしょうか?

髙橋 今はプランニングフェーズの最終段階ですが、もうすぐ最終確認ミーティングを開催して、そこから先は一気にアクティベーション(実行)のフェーズに入ります。チーム内の緊張感も徐々に高まってきており、いよいよ開催に向けたカウントダウンが始まったという雰囲気を感じています。

──しかし、今まで準備してきた数々のプロジェクトがいよいよ始動するというタイミングで、オリバーさん自身は今年の春に交通事故に遭われ、両目の視力を失いました。今もゼネラルマネジャーの職を精力的に務めてらっしゃいますが、事故直後は精神的なショックもかなりあったのではないでしょうか?

髙橋 あまり感じたことはない……と言ったら嘘になりますね(笑)。でも、気にしないようにはしています。

──そうなんですね。

髙橋 気にする暇がないと言ったほうがいいかもしれません。落ち込んでいたら、オリンピックが終わっちゃうのでね。病院の先生に、「視力をなくした人が『もう一回這い上がってみよう』と思えるようになるには、1年半から2年くらいはかかるので、焦らずいきましょう」と言われたときに、「先生、そんなゆっくりしていたらオリンピック終わっちゃいます!」と言って驚かれたことを明確に覚えています(笑)。

──自分にどんな事情があれ、オリンピックは立ち止まってはくれない、と。

髙橋 もちろん、いろんな場面でジレンマを感じることはあります。でも、僕が仕事を続けられるようにチームのみんながサポートをしてくれて、本当に感謝しかないです。もはや僕にとってこのチームは、ファミリーですね。

[日本コカ・コーラ オリンピック専門チームの仕事の流儀 第1回]オリンピック専門チームが目指すゴールとは?──ゼネラルマネジャー 髙橋オリバーインタビュー

 

■2020年以降もスポーツビジネスの世界で生きていく

──事故を経ても仕事へのモチベーションは変わりませんか?

髙橋 変わりません。やっぱり仕事は楽しんでやるものだし、仕事を通じてみんなを楽しませたいとも思っています。そこは昔から変わらないです。今回の事故もそうですけど、いつ何があるかわからないじゃないですか。だったら、楽しんでやらないと。

──では、東京2020オリンピックのあともスポーツビジネスには関わり続けたい?

髙橋 はい。僕はスポーツの世界しか知らないので、東京2020オリンピックが終わっても、そこで生きていくつもりです。

──ちなみに、個人的に好きな競技はなんですか?

髙橋 水泳です。

──それは自分がやっていたから?

髙橋 そうです。これも入院していたときの話なんですが、僕の学生時代のコーチが病院にお見舞いに来てくれて、「オリバー、これは今からパラリンピック狙えるぞ」って言われました(笑)。

──すごいコーチですね! 確かにオリンピックの運営に関わりながら選手として出場したら前代未聞です(笑)。

髙橋 無理ですけどね(笑)。でも、今も週に2、3回は泳いでいますよ。

──事故後も、ですか?

髙橋 はい。これも笑い話ですけど、事故のあとに眼科の先生に、「僕はいつ頃から泳げますか?」と聞いたんです。「そんなことを言う患者さんは初めてです」って驚かれました(笑)。僕はあまりクヨクヨするタイプじゃないんですよ。マグロじゃないですけど、常に動いていないと息苦しくなってしまう。そういう性格だから、スポーツの世界に惹かれ続けているのかもしれないですね。

 

[日本コカ・コーラ オリンピック専門チームの仕事の流儀 第1回]オリンピック専門チームが目指すゴールとは?──ゼネラルマネジャー 髙橋オリバーインタビュー

たかはし・おりばー/オーストラリア・シドニー大学マーケティング学部を卒業後、Reebokに入社。1997年の長野冬季オリンピックではReebokがスポンサーする競技連盟を日本国内で担当。2000年には、当時FIFA(国際サッカー連盟)のマーケティング権利を保有していたISL Japanにシニアマーケティングマネジャーとして入社。2002FIFAワールドカップのスポンサー企業を担当し、大会組織委員会とのマーケティング活動を担う。2002FIFAワールドカップ終了後、FIFA本部のあるスイスへ転勤し、マーケティング・アライアンス・ディレクターを勤め、2008年にはヘッド・オブ・マーケティング・アライアンスとしてFIFAすべてのスポンサー企業を担当。2010年にはイベント・マネジメントの責任者も兼務する。2012年からナイキジャパンのスポーツマーケティングシニアディレクターとして、すべてのスポーツカテゴリーの競技連盟やクラブチーム、個人選手の契約・マネジメントを担当。2016年8月に日本コカ・コーラ株式会社の東京2020年オリンピック ゼネラルマネジャーに就任。