多様な働き方が広がる中、個々の社員の成長を促し、それを会社の成長にもつなげるためにはどうすればいいのか。今、多くの企業で、人事戦略の見直しが迫られています。かねてより多様さを重視してきた日本コカ・コーラでも、新しい行動指針「Growth Behavior」を掲げ、さまざまなイノベーションにつなげています。Growth Behaviorとはいったいどんな行動指針なのか。自らも多様なキャリアを歩んできた、人事本部副社長のエリコ・ターリーが解説します。

文=『Coca-Cola Journey』編集部
写真=村上悦子

 

■気持ちよく働くには「尊重」が大事

──エリコさんはこれまで、さまざまな企業でHR(人事)に携わる仕事をされてきました。いつ頃からHRの仕事をされているのでしょうか?

ターリー アメリカの大学を卒業後、サンフランシスコの伝統ある大きなメーカーに就職しました。その会社でHRの仕事に就いて以来、これまでずっとHRの仕事をしています。最初の会社で巡り合った上司に、福利厚生から給与のことまでいろいろなことを教えてもらいました。この最初の会社で学んだことが、その後転職を重ねてもずっと生かされています。

──サンフランシスコのメーカーの後は、インターネット関連のスタートアップ、Amazon、Facebookを経て日本コカ・コーラに至ります。エリコさんご自身、どの段階で多様性の重要性に気づかれましたか?

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日本コカ・コーラ株式会社
人事本部 副社長
エリコ・ターリー

 

ターリー 私は父がアメリカ人、母が日本人なので、家の中でグローバルな価値観というものを学びました。多様性については、通っていた東京のインターナショナルスクールで気づくことが多かったと思います。そこには60カ国の子どもが通っていて、友達からいろいろな文化を教えてもらいました。

──そのように子どもの頃からさまざまな文化に触れてきたことは、エリコさん自身の仕事にも生かされていますか?

ターリー そうですね。そのおかげで、相手を尊重する気持ちを持てるようになったと思います。相手を尊重していると、自分も相手から尊重されるようになります。そうすると、気持ちよく働くことができる。気持ちよく働くには、会社の文化や仕事内容がどうかという以前に、相手を尊重する気持ちを持つことが大切だと思います。

 

■個々の行動指針「Growth Behavior」からイノベーションが生まれる

──日本コカ・コーラは個々の成長を高めるため「Growth Behavior(成長のための行動指針)」を掲げています。なぜ個々の成長を重要視しているのでしょうか?

ターリー 私たち日本のコカ・コーラシステムは、幅広いポートフォリオで製品を展開しています。多様化する顧客ニーズをいち早くつかんで市場の変化に対応するためには、消費者のみなさまにコカ・コーラ社製品を選んでいただくための進化を続けていかなくてはなりません。たとえば日本での最近の事例として、「Coke ON」アプリの進化が挙げられます。このアプリを使って製品を購入するとスタンプが貯まり、無料で製品と交換できるドリンクチケットがもらえるなど、ユーザーの方にさまざまな特典があります。2016年にサービスがスタートしてから、電子マネー決済でスタンプがたまる「Coke ON IC」や、歩数によってスタンプがたまる「Coke ON ウォーク」といった新しい機能がどんどん追加されています。今年は「Coke ON」から東京2020オリンピック聖火ランナーに応募できるキャンペーンも実施しましたし、来年は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の大会観戦チケットが当たるキャンペーンも行う予定です。こうしたイノベーションを常に起こし続けるために必要なのが熱意と行動力で、Growth Behaviorはそのための行動指針なのです。

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──具体的にはどういった指針がありますか?

ターリー Curious(好奇心を持つ)、Empowered(当事者意識を持つ)、「V1.0, 2.0, 3.0」(常に更新する)、Inclusive(多様性を受け容れる)という、4つの柱があります。まずはCuriousから説明しましょう。イノベーションを起こすには、常に「なぜ?」という問いかけが必要です。「いつもやっていることだからやっている」という行動理由だけでは、イノベーションは起こせません。世の中で起こっていることや、この先起こりうることに好奇心を持つことが、探究心をかきたて、新しいことにチャレンジする姿勢を促すのです。

──2つ目のEmpoweredとは?

ターリー 日本のコカ・コーラシステムでは多くの社員が働いていますが、一人ひとりが主体的に物事を考えて、発言し、実行すること、そして結果に対する責任を引き受けることが大切です。それはつまり「当事者意識を持つ」ということ。そうすることで、組織も早く前進することができます。ただ、コカ・コーラシステムは社員に責任を与えるだけではなく、失敗を学びとするためのセーフティネットも用意しています。イノベーションは小さな失敗と成功の積み重ねでもあるからです。

──3つ目の「V1.0, 2.0, 3.0」は、明確な言葉ではない指針ですが、どういったものですか?

ターリー これはソフトウェアのバージョンアップのように、バージョン1.0から2.0、そして3.0へと、常に更新していくという意味です。日本人は完璧主義な人が多いのですが、前に進むことを最優先に考えるのであれば、完璧でなくてもいいのです。完璧を求めると、前に進めなくなってしまいます。改善して行くことが大切だから、「最初は完璧でなくてもいい」「間違っていてもいいんだよ」という環境をつくっていきたいと考えています。

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──最後のInclusiveとは?

ターリー イノベーションを起こすには、さまざまな視点を持つことが不可欠です。そのための多様性を受け容れるという意味でのInclusiveです。社員は個々でも力を発揮しながら、一つにまとまって力を合わせていくことで、もっと大きな力を発揮することができます。その時に必要なのは相手へのリスペクト。相手のことをすべて理解できていなくても、まずは相手を信用することが大切。どのミーティングにも、さまざまな人の声を取り入れながら進めることで、イノベーションにつながります。

 

■日本人はダイバーシティが苦手ではない。気づく機会が少ないだけ

──Growth Behaviorを社内に浸透させるために、どのような取り組みをされていますか?

ターリー Growth Behaviorという指針を打ち出したアトランタ本社のジェームス・クインシー(ザ コカ・コーラ カンパニーCEO)や、ホルヘ・ガルドゥニョ(日本コカ・コーラ代表取締役社長)も、さまざまなかたちで社員にメッセージを送っています。Growth Behaviorがどういうものなのか、そしてそれをどうやって仕事に応用するかを理解するための研修やイベントも開催しています。また、社員同士でGrowth Behaviorへの意識を高めるために、誰かが多様性を受け容れるInclusiveな行動を取ったら称賛する、ということも推奨しています。人事評価にもGrowth Behaviorを評価対象に含めていますから、それだけ、コカ・コーラシステムがこの指針を重要視しているということでもあります。

──入社したばかりの新しい人材に対しては、Growth Behaviorへの理解を深めてもらうためにどのようなサポートをしていますか?

ターリー 新しい方を雇用した際には、まずオリエンテーションを実施しています。そこから半年かけて、パートナーとペアになって会社の実務と全体像を学んでもらい、Growth Behaviorについても理解を深めてもらっています。コカ・コーラシステムでは、雇用する際に「どれだけ仕事ができるか」ということよりも「どれだけ私たちの考えに賛同してくれるか」ということを重要視しています。そのためGrowth Behaviorに対する理解も、皆さんスムーズです。

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──日本は海外と比べてダイバーシティが進んでいないとも言われますが、そのためにGrowth Behaviorの広がりにくさを感じることはありませんか?

ターリー 日本人は決してダイバーシティの考えが苦手なのではないと思います。その重要性に気づきづらい環境にいるというだけ。たとえばサンフランシスコではさまざまな人種の人たちが働いていて、LGBTQなどについても受け容れられる環境が整っていました。日本だと、会社の中はだいたい日本人なので、そういった「違い」というものに目を向けづらいのだと思います。だからこそ私たちHRが、そのことに気づくため環境を段階的に用意していくことが大切です。その一環として、今年の春に、社内でダイバーシティのイベントを開きました。「LGBTQ」「女性」「世代」という3つのトピックスから、社員に多様性への認識を深めてもらったのです。このイベントは強制ではありませんでしたが、会場は満席になりました。それだけ多くの人がCurious、好奇心を持って参加してくれました。

──エリコさん自身は今後、Growth Behaviorをどのように体現していきたいですか?

ターリー 当社では「Curious Friday」という、学びの機会を持つための集まりを実施しています。そこで飲料業界に限らずさまざまな業界の方をスピーカーに招いたり、チームで他社や市場見学をしたりしています。その中で私は、他社のHRの皆さんとともにネットワークをつくって、情報交換、意見交換をして会社に持ち帰りたい。それをチームとしても行い、イノベーションにつなげていきたいですね。

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えりこ・たーりー/アメリカの大学を卒業後、サンフランシスコのメーカーでの勤務以降一貫して人事の仕事を続けている。長くインターネット通信関連の業界に従事したのち、2017年日本コカ・コーラ入社。