■想像力をかき立てる“引き算”の表現

ポーラーベアのキャラクターについては、つくり込みすぎることを避けたいという思いがありました。CM中に会話がないのもそのためです。会話があると、視聴者の頭の中に「ポーラーベアの声とはこういうもの」というイメージができてしまい、想像力をかき立てる効果が薄くなってしまいますから。私にとって、「コカ・コーラ」は単なる清涼飲料の一製品を超えた、神秘性をまとった存在。飲んだときに感じる魔法のような感覚を映像で表現し、視聴者を不思議な世界に連れ出したいと思ったんです。

CG画像を作成中のアニメーター

 

CG技術が現在ほど進んでいない頃のことですから、30秒のCM1本を完成させるのに、メンバー16人がほぼフルタイムで作業しても、4ヵ月かかりました。最初はまるで、月に人を送り込むような感覚でした。月にはきっと到達できると誰もが信じていたものの、そこに至るには数々の困難を乗り越えなければならなかったんです。

要素を減らすことで“余白”からより多くのこと伝えることができる——という考えは、当時も今も大切にしています。CMをごちゃごちゃしたつくりにしなかったことで、視聴者は「コカ・コーラ」を巡る本物の、人間味のある体験をしたと感じることができたんです。同じことをもう一度やることになったら、まったく同じような考え方で取り組むでしょうね。

Always Coca-Cola」キャンペーンの一環として1993年に放映されたCMから

 

CM中のポーラーベアの声は、実は私自身の声なんです。最初は本物のクマの唸り声を探したんですが、CMに出てくるポーラーベアにぴったりのものは見つかりませんでした。そこで「こんなものが欲しい」と伝えるために、私自身がポーラーベアになりきって声を出して録音したところ、最終的には、「これでうまくいくみたいだから、このまま使おう」ということになったんです。まったく、偶然の産物とはこのことです。

 

■ポーラーベアが伝えるメッセージとは

CMが放映されて間もなく、ピーター・シーリーが朝の6時半くらいにロサンゼルスの私の自宅に電話をしてきました。彼は完全に舞い上がっている様子で、「ケン、『ニューヨーク・タイムズ(*3)を取ってるか?」と尋ねました。私が取っていると答えると、「じゃあ、今から外に出て朝刊を取ってきて、ビジネス面を開いてみろ」と言うのです。彼の言う通り、ビジネス面を開いてみると、そこにはポーラーベアたちの写真が掲載されていました。彼はこみ上げてくる笑いを抑えきれないようでした。私の手掛けたCMが大きな話題になったことを心から喜んでくれたんですね。

ビバリーヒルズの自宅にて、ポーラーベアのぬいぐるみと一緒にポーズを取るケン・スチュワート

 

CMの成功を受けて、ザ コカ・コーラ カンパニーは「93年12月までに、もう3本のCMを製作してほしい」と伝えてきました。短期間での製作は大変でしたが、ポーラーベアの世界を広げる機会をもらえたのは、私にとって何よりのご褒美でした。そのうち1本にはサンタクロースが登場し、もう1本では、2頭のポーラーベアの子がクリスマスツリーを坂の上に運び上げます。また、新キャラクターとしてアザラシも登場させました。自然界では、ポーラーベアはアザラシの天敵。普段敵対しているもの同士が、『コカ・コーラ』を通じて友情を築くストーリーに、視聴者の心を揺さぶる可能性を感じたんです。

誕生から四半世紀を経て、ポーラーベアは今や、「ミーン・ジョー」や1971年の名作CM「Hilltop」(さまざまな人種や国籍の若者が一緒になって、『I’d Like to Buy the World a Coke』を合唱するCM)と並び、「コカ・コーラ」を代表するコンテンツとなっています。優れた広告は、誰もに伝わるメッセージを備えているものですが、ポーラーベアのCMの場合、シンプルなストーリーが伝える“一緒にいることの幸福感”がそれにあたるでしょう。私がいちばん誇りに思っているのは、本物の感動を視聴者に届けることができたことです。人々の生の感情に訴えかけるものをつくることができれば、その作品は永遠に生き続けると信じています。

*3 『ニューヨーク・タイムズ』:米国内で有数の発行部数を誇る日刊新聞紙。

 

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