全国各地で、日夜さまざまに働くコカ・コーラシステム(*)の名物社員を訪ねるこの企画。
今回は、「サラリーマンの街」新橋で、新種のノンアルコールカクテル「モクテル」を広めるべく奔走する、ある女性営業員に密着した。

コカ・コーラシステム……原液の供給と、製品の企画開発・マーケティングを担う日本コカ・コーラと、製品の製造、販売などを担うボトラー社や関連会社などで構成される。

文=香川誠
写真=下屋敷和文

 

■海外で人気の「モクテル」とは?

 ソフトドリンク同士をミックスするだけでつくれるノンアルコールカクテル「モクテル」。「疑似」を意味する「mock(モック)」と「cocktail(カクテル)」から名付けられたそのドリンクは、ロンドンを中心にブームが広がり、「若者のお酒離れ」が進む日本でも徐々に人気が高まりつつある。

 このモクテルを、東京・新橋の飲食店に広めようと奔走する女性がいる。コカ・コーラ ボトラーズジャパン、入社9年目の石井美帆だ。横浜支店で営業員としてのキャリアをスタートさせた彼女は、現在日暮里支店に所属し、セールスマネジャーとして新橋エリアの営業を担当している。

コカ・コーラシステム名物社員密着ルポ「その3」 今では「街の有名人」! 新橋をゆく女性営業員の1日

営業目標の進捗を確認する石井(写真左から2番目)。
上司である落合真吾(写真左)がチームメンバーを激励する

「今日も頑張るぞ」「オー!」

 午前9時過ぎ、チームミーティングを終えた石井は、一日の予定と目標を確認した後、自分の席に戻った。担当エリアの新橋に向かう前に、メール対応や資料作成などのオフィスワークを済ませておく必要がある。しかし、アポイントの時間を考えると、ここで多くの時間をかけられるわけではない。30分ほどして、彼女は支店を出た。

 

■「ノンアル苦戦地区」の新橋で導入なるか

 オフィスの多い新橋エリアには、ホテル、レストラン、カフェなど人の集まる場所が多い。石井は、そのような場所を中心に営業を回っている。この日はまず、アミューズメント施設でディスペンサー(*濃縮シロップを飲料水や炭酸水で希釈してその場でドリンクを製造するマシン)の設置に立ち会った後、モクテルの営業のため、新橋でも人気のダイニングバー「肉炉端 TOKYO BAT 新橋店」を訪れた。

 まずは雑談から入り、モクテルの製品説明やセールスポイントを一つひとつ説明する石井。お酒を飲めない人でも飲み会を楽しめる。色鮮やかでインスタ映えする。女性ウケがいい。「コカ・コーラ」や「カナダドライ ジンジャーエール」など、もともと仕入れていた飲料の組み合わせで新メニューをつくることができるので、店にとっては、先行投資がかからないし客単価も上がるというメリットもある。

コカ・コーラシステム名物社員密着ルポ「その3」 今では「街の有名人」! 新橋をゆく女性営業員の1日

コカ・コーラ」×「ミニッツメイド 朝の健康果実 オレンジ・ブレンド」、
カナダドライ ジンジャーエール」×「リアルゴールド」など
モクテルのバリエーションは豊富

 店長が大の「コカ・コーラ」好きだと聞いたので、いい商談になるだろうと思った『Coca-Cola Journey』編集部のメンバーだったが、ビジネスはそう甘くはない。

「新橋だと、“ノンアル”自体があまり出ないんです。お酒を飲みにくるお客さまがほとんどなので」

 店長の反応は今ひとつだった。石井はこのお店の雰囲気に合わせたモクテルのメニュー表をつくって持参し、売り方のイメージを持ってもらおうとしたが、店長からいい返事はなかった。

コカ・コーラシステム名物社員密着ルポ「その3」 今では「街の有名人」! 新橋をゆく女性営業員の1日

お店特製のフルーツシロップにコカ・コーラ社製品を組み合わせ、
オリジナルの「モクテル」を販売してはどうか? と提案

 店を出た石井に、先ほどの営業の感想を尋ねた。成果がなく意気消沈しているのかと思いきや、彼女の声色は明るい。

「最初に断られるのはいつものことです。今日はいい返事をいただけなかったけれど、後から『やっぱりうちでもやってみようかな』と思っていただけることもよくあります。オフィス街は人がどんどん入れ替わるので、消費者の嗜好も変わっていく。今はノンアルコールの需要がなくても、状況が変わることは考えられます」

 落ち込む様子は一切なく、「今度は一緒に飲んでみようかな」と次の戦略を考え始めている石井。一つ断られたくらいではめげない精神的な強さを見せるが、入社当初は、“あきらめの早い”営業員だったという。

 

■製品を売るのは「会社の看板」ではない

 まだ石井が新米営業員だった頃の話だ。期末が近づいているにもかかわらず、目標の売り上げに到達していない石井は、焦りを感じ始めていた。なんとか注文を取ってもらえないかと、すがるような気持ちである飲食店を訪問したが……。

「店長に『もう棚卸しも終わったし』と言われて、『断られちゃったな』と思ったんです。そこで私はあきらめて、新しい提案をするわけでもなくそそくさと店を出てしまった。でもその店長が私を追いかけてきて、『石井さん、何か困っているから来たんじゃないの?』と言われました。まだ売り上げ目標を達成できていないということを正直に話したら、店長が注文をしてくれたんです」

 石井はこの時に、困っている時には助けてくれる人がいるということを覚えた。もちろん、そうしたお願いはいつもできることではないし、顧客との強い信頼関係があってこその話だ。

「営業では、お客さまと仲良くなることを第一に考えています。だから雑談も大事。雑談のほうが多いくらい(笑)。それで相手の好きなものも分かるので」

 とはいえ、結果を急ぐことはしない。入社当時に上司から言われた、「『コカ・コーラさん』じゃなくて、『石井さん』と呼ばれるようになってから提案をしなさい」という教えを守り、石井は時間をかけて信頼関係を築いている。そのうえで最も大切にしているルールは、「嘘をつかない」ことだという。これもまた、同じ上司から教えられたことだ。

「分からないことよりも、分からないまま答えることのほうが恥ずかしい。そう教えられました。お客さまに聞かれたことが分からない場合は、適当な返事をせずに、『次に来る時までに調べてきます』と言って帰るようにしています」

 石井の常に勉強を怠らない姿勢はそこから生まれた。新製品の情報が通達されれば、概要をチェックして自分でも試飲した後、ターゲットを確認し、その製品を「どこに提案するか」、小売店であれば「どこに並べるか」というところまで考えて準備をしているという。

コカ・コーラシステム名物社員密着ルポ「その3」 今では「街の有名人」! 新橋をゆく女性営業員の1日

毎日オフィスにいる時間はわずか。
その短い時間に新製品の勉強、提案書作成などを効率よく進める。
タイムマネジメント力が問われる仕事だ

 そんな石井を、現在の直属の上司であるスーパーバイザーの落合真吾はこう評価している。

石井は提案が上手な営業担当者です。トーク力もあるし、知識も豊富。今は知らないことがないくらいで、安心して仕事を任せられます。先日も、石井の丁寧な説明と熱意が功を奏して、他社から当社に契約を切り替えるお客さまがいらっしゃいました。機器のメンテナンスなど、アフターケアも迅速で、お得意さまのことをちゃんと思って接している。その点を、お得意さまからも評価いただいています」

 

■顧客と一緒に目標を達成していく

「あ、こんにちは」

 次の営業先に向かう石井に声をかけたのは、近所の酒屋さんだった。瓶の「コカ・コーラ」と「カナダドライ ジンジャーエール」をいつも注文してくださるお客さまとあいさつを交わした後、石井はお店からの要望を聞いていた。

 石井がこのように新橋の街なかで声をかけられるのは珍しいことではない。彼女は、この街ではよく知られた存在だ。営業員として、それだけ街のすみずみまで歩いているということでもある。

 この後、石井は「カラオケ 747 新橋店」に、コーヒーマシンを設置した。この日最後の仕事だ。新橋ではカラオケ店でコーヒーを飲むお客さまも多く、設置に立ち会った店長も期待を寄せていた。

コカ・コーラシステム名物社員密着ルポ「その3」 今では「街の有名人」! 新橋をゆく女性営業員の1日

コーヒーマシンの説明をする石井
「お客さまにわかりやすいようボタンにシールを貼りましょうか?」
と、きめ細やかなケアも忘れない

 うだるような暑さだった一日だが、石井はどこにいても、暑そうにはしていなかった。むしろ表情は涼しげだ。

「こういう日は清涼飲料水の需要も高まるので、夏場は一年の中でもやりがいのあるシーズン。暑いのは大変ですが、こういう時こそ、お客さまにお貸ししている当社の機材に不備がないか、製品が欠品して売り損じが生じてないかといったチェックをきちんとしていきたいですね」

 新橋には、多種多様なオフィス、飲食店が混在する。そしてお客さま一人ひとりに、それぞれの目標がある。石井の今後の目標は、そうしたお客さまの目標を一緒に達成していくことだという。

「目標を一つ達成すれば、またそれよりも高い目標が設定されます。今よりもさらに高い目標を達成していくことで、お客さまも私も今よりもっと良くなっていくと思います」

 既存のお得意さまのアフターケア、新規のお得意さま開拓、新製品の売り込み、そして新しい飲み方の提案まで──。石井は今日も「(コカ・コーラの)石井さん」として、新橋の街を歩いている。

コカ・コーラシステム名物社員密着ルポ「その3」 今では「街の有名人」! 新橋をゆく女性営業員の1日

いしい・みほ / 2010年コカ・コーラ セントラル ジャパン(現・コカ・コーラ ボトラーズジャパン)入社。横浜支店、品川支店など数支店で営業職を経験後、2018年より日暮里支店でセールスマネジャーを務める。