日本では、地域ごとに特有の言葉遣い=方言があり、その言い回しの違いがしばしば話題になります。もちろんこのような方言が存在するのは日本に限ったことではなく、米国でも同様です。今回ご紹介するのは、「炭酸飲料」の呼び方の違い。その地理的分布を地図に表してみると、さまざまな興味深い背景が浮かび上がってきました。

文=マッケンジー・ランスフォード

 

■炭酸飲料の呼び方は、こんなに違う!

「炭酸飲料のことを何と呼ぶか」について、米国でアラン・マッコンチーほど詳しい人物はいないかもしれません。彼の専門は、さまざまな事象に関するデータを地図上にマッピングし、地理的な分布を示すこと。勤務先のデザイン事務所は、『ナショナル・ジオグラフィック』誌の依頼でアマゾンの熱帯雨林の植生分布をマッピングしたり、自然保護団体である全米オーデュボン協会の依頼で渡り鳥の移動経路と気候変動の相関性を可視化したりと、科学的にも優れた実績を有しています。

しかし、マッコンチーのプロジェクトで最も注目を集めたものといえば、「炭酸飲料の呼び方」の分布を示した米国地図の作成でしょう。実は米国では、炭酸飲料の呼び方が「soda」「pop」「Coke」など、地域によってさまざま。マッコンチーはインターネット上の調査データを活用し、呼称の違いによって地図を塗り分けました。それが、この地図です。

「炭酸飲料」を英語でなんて言う? 「Soda」? 「Pop」? 「Coke」? 3つの“方言”の由来を探る

炭酸飲料の呼び方の地理的分布を表した地図。
主な呼称が「soda」の地域は水色、「pop」の地域は黄色、「Coke」の地域はピンク色で示されている

この地図を見ると、「pop」派は米国の中西部と北西部に集中している一方、「soda」派は北東部と南西部に多く、中間のいくつかのエリアにも点在していることが分かります。そして南部の大半では、ブランドや種類にかかわらずあらゆる炭酸飲料を「Coke」と呼ぶ傾向があります。

 

■方言とは自己表現である

マッコンチー自身は、「pop」派の地であるワシントン州ベリングハムで育ち、1993年に「soda」派が主流のロスアンゼルスにあるカリフォルニア工科大学に進学しました。「大学で、人によって炭酸飲料を異なる言葉で呼ぶことに気づき、その話題で友人たちと盛り上がるようになったんです」と彼は言います。友人同士の他愛もない会話から始まった調査は、次第に本格化し、今では50万人近くのデータが分布図に反映されています。

回答者の中には、わざとおかしな答え方をしてデータを歪めようとする不届き者もわずかに混ざっていますが、それでも膨大な数のデータからは、興味深い傾向が判明することもあるそうです。たとえば、マサチューセッツ州ボストンではあらゆる炭酸飲料を「tonic」と呼ぶことが分かっています。また、ノースカロライナ州東部を中心に「soda pop」と呼ぶ人も一定数います。

また地図を見ると、ミズーリ州セントルイス(米国の東部寄りの内陸部)とウィスコンシン州ミルウォーキー(その北にあるミシガン湖に面したエリア)周辺には、「pop」に取り囲まれた「soda」のエリアがあることが分かります。マッコンチーによると、まだ誰もその正確な理由を説明できていないそうです。

ケンタッキー大学で言語学を教えるジェニファー・クラマー博士は、仮説の一つとして、「このような局地的な傾向は、集団移住や輸送ルートによって説明できる可能性があります」と言います。クラマーによると、教え子の学生のうち「soda」派は、その呼び方を言語的に“中立的”と考える傾向があるそうです。たとえば「Coke」は南部特有の言い方に感じられる一方、「soda」はそこまで地域色が出ない言葉=標準語と捉えられている、という考え方ができるかもしれません。

しかし最もクラマーの興味をそそるのは、そもそもなぜ人は同じものを異なる名称で呼ぶことにこだわりを示すのか、という点です。方言には、出身地への愛着や忠誠心の表れという側面もあります。「多くの人は、言葉遣いは自分が何者であるかを反映するものだと、非常に強く感じています。その感覚はほとんど無意識的なものかもしれませんが、私たちはものの言い方を決めることで、自分自身を表現しているとも言えるのです」と彼女は説明します。

 

■それぞれの呼称の由来

では、「soda」という言葉はそもそもどこからきているのでしょうか? ウィスコンシン大学マディソン校で辞書の編纂に携わるルアン・ヴォン・シュナイドメッサーは、炭酸飲料の呼称が「soda」と「pop」に分かれる現象について論文を書いています。

彼女によると、「soda water」という表現が初めて確認されたのは1802年で、重曹が含まれる発泡性の飲料のことを指していたそうです。一方、オックスフォード英語辞典によると、「pop」が飲料を指す言葉として初めて使われたのは1812年のこと。コルク栓を抜いたときの破裂音を表す擬音語が由来となっているそう。

シュナイドメッサーは、ボストンで使われる「tonic」の由来もつきとめました。この言葉は米国北東部のニューハンプシャー州やメイン州でも使われており、今でいうエネルギードリンクのような、疲労回復や元気を出す目的で飲む飲料全般を指していたそうで、使われていた記録は1756年までさかのぼります。

そして、「Coke」の由来が何かは、みなさんお分かりですよね。「Coke」=「コカ・コーラ」は1886年にアトランタの薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士が発明した、生まれも育ちも米国南部の清涼飲料です。

 

コカ・コーラ社「Coke」の愛称を認めていなかった!?

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代用品の提供を防ぐために、「コカ・コーラ」をフルネームで注文するよう呼び掛ける広告

ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)でアーカイブ庫の責任者を務めるテッド・ライアンによると、「コカ・コーラ」は20世紀初頭には、米国のすべての州で販売されていました。ちなみにライアンは、どの地域で炭酸飲料一般が「Coke」と呼ばれているか以上に、ザ コカ・コーラ カンパニーが当初「Coke」という愛称を必死で食い止めようとしていたことと、それでも広まったこの愛称の“しぶとさ”に興味をそそられるそうです。

「コカ・コーラ」の人気が爆発的に広まった20世紀初頭、消費者たちは親しみを込めて「Coke」と呼ぶようになりました。しかし、商標登録されていなかった「Coke」という呼称は、模造品の流通を助長し、ブランドを脅かす迷惑な存在だったのです。そのためコカ・コーラ社は最初のうちは、消費者に「コカ・コーラ」ときちんとフルネームで注文してほしいと呼びかけています。しかしすっかり定着してしまった愛称を否定し続けることはできないと悟り、「Coke」を受け入れる方針に転換。1940年には、「Coke」は正式に商標登録されるに至ったのです。

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『Coke』とは『コカ・コーラ』のことですよ」と呼びかける1940年代の広告

ある地域の人々が特定のブランドを支持するあまり、その名前を一般名詞として使用するという現象には、これ以上ない宣伝効果があります。マッコンチーが作成した地図は、米国南部における「コカ・コーラ」の存在の大きさを示す何よりの証拠と言えるでしょう。

さて、この地図について、ライアンはどう思っているのでしょうか? 尋ねてみると、「作成者の方にお礼を申し上げたいですね」と、意外なほどにドライな答えが返ってきました。実のところ、毎週、ときには毎日のように、彼宛に米国中からこの地図がメールで送られてくるので、もはや見慣れてしまったそうなのです。やはり、皆の興味をそそらずにいられない話題であることは間違いなさそうですね。