LEDライトの光に輝く魚や鳥、草木、花など実寸大のアート作品。ガラスのような透明感が特徴ですが、実はこれらの材料はすべてPETボトルです。この「PETボトルソフィスティケイティドアート」を考案し、創作している本間ますみさんは、自然の美しさをPETボトルで表現した作品の展示を通じて、「PETボトルのポイ捨てをやめよう」というメッセージを10年に渡って発信し続けています。『Coca-Cola Journey』編集部は、そんな本間さんに、環境に対する想いや、PETボトルの資源としての可能性についてお話を伺いました。

文=『Coca-Cola Journey』編集部
写真=中山文子

 

■自然に情景を楽しんで欲しいからリアルを追求する

──本間さんの考案した「PETボトル ソフィスティケイティドアート」はPETボトルを使って自然の姿をジオラマのように表現した作品ですが、材料はPETボトルのみ、なんですよね?

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

PETボトルアーティストの本間ますみさん

 

本間 はい。材料はPETボトルだけで、道具ははんだごてとはさみくらい。作品そのものもリサイクルできるよう、接着剤や塗料は使っていません。

──PETボトルと一口に言っても製品ごとに形や厚さが違いますが、それらをどのように使い分けていらっしゃるんですか?

本間 たとえば、「アクエリアス」のボトルはトンボの羽などをつくるのに適しているんです。「コカ・コーラ」は真ん中の部分でアジサイの葉や花びらを、上部では花茎をつくります。硬く厚い下の部分では、バラの花びらをつくったりします。あと、薄手の「爽健美茶」のボトルは小鳥の羽ですね。

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

お茶製品のPETボトルは鳥の羽を表現するのに最適だそう
ハサミで入れた細かい切れ込みは輪郭線の役割も果たしている

 

──PETボトルの厚さによってつくるものが変わるというわけですね。

本間 実際の生き物の質感や柔らかさなどを表現したいので、厚さは重要なんです。バラの花びらは柔らかいですがハリがありボリューム感があるので厚みのあるPETボトルがいい。小鳥の羽は細かく切り込みを入れて柔らかさふわっとした感じを表現したいので、薄いPETボトルがいいんです。

絵を描くときに、描くものによって線の太さを変えるじゃないですか。そのためにペンや鉛筆を選びますよね。それと同じで、絵を描く人の筆記用具が私にとってはPETボトルなんです。

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金魚、タイ、トビウオは鱗をはんだごてで描いて表現
大きい作品になると、一枚一枚、鱗を切り出して溶接することも

 

──描くものによって線の太さが違う=PETボトルの厚さが違うわけですね。そうやってつくられた作品の美しさは、写真でも十二分に伝わってくるのですが、こうして実物を拝見するとその繊細なつくりに驚かされます。

本間 とにかく実物大でリアルに精巧につくることにこだわっているんです。実はごく最初の頃、1枚の写真を見てつくったスズメをブログにアップしたら、鳥に詳しい方たちから指摘を受けたんです。「羽の形が違っていますよ。鳥には種類によって特徴的な羽の形があるんです」と。植物も同じです。形も葉脈の走り方もそれぞれに違う。立体では特にそこを再現しないと違和感を生むのだと気づきました。そういうディテールをきちんとしないといけないと痛感して、そこから本物と同じように表現することを追求してきました。

──そこまでリアルさにこだわっているのはなぜですか?

本間 アートというのは、しばしばデフォルメしたりウソをついたりするものです。でも私がつくりたいのは、見ている人が違和感を感じずに楽しんでもらえる環境なのです。PETボトルでつくられているものだとしても、まるで自然の景色そのもののように「きれいだな」「癒されるな」と見る人に感じてもらいたいんです。

そのために、展示の内容も展示する地域に合わせて変えています。その場所にいる生き物たちを作って身近な自然を構成するんです。沖縄で展示をしたときは、やんばるの森(*1)の風景とそこに生息する生き物たちをつくりました。

*1 沖縄県北部の、森林や山など手付かずの沖縄の自然が残されている地域。

 

■作品の美しさを楽しんでもらい、PETボトルの認識を変えたい

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

まるで自然観察をするかのように鑑賞を楽しむことができる本間さんの作品
このあじさいの葉には、実はかたつむりが隠れている

 

──そうやってリアルであることにこだわった展示を見た人たちはどんな反応を?

本間 1回見終わった子どもたちに「カエル何匹いた?」と聞くと、展示の植物の中に隠れている昆虫を探して何度も行ったり来たりして、自然観察するように楽しんでくれます。沖縄の展示では、高齢のご夫婦から「自分が子どもの頃の風景そのまま。本当にこんな感じだったんだよ!」と感想をいただき、うれしかったですね。また、作品の前のベンチに何時間も座っている女性がいたのですが、ブログで「PETボトルごときに癒されてしまった!」なんて書かれていて。

──「ごときに」というその言葉には、どんな真意があったのでしょうか?

本間 やっぱりPETボトルは「資源ごみ」と言われているように、多くの人の認識では“ごみ”なんです。でも、そんなふうに思っていたPETボトル“ごとき”が、こうして生まれ変わって美しく自然を表していることに驚かれたんだと思います。

観覧者に私がお伝えしているのが「実は、PETボトルのポイ捨てをやめましょう、という裏テーマがあるんですよ」ということ。「なるほど、PETボトルを見直しました!」っておっしゃっていただけて、「よしッ!」と思いましたね。

──作品の美しさに心動かされた人ならば、メッセージはより伝わり、共感してもらえますよね。

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紫陽花の花びらは「コカ・コーラ」の2リットルPETボトルでつくる
形の異なる花びらを重ねて溶接し1つの花になる

 

本間 そうですね。PETボトルがこんなにも美しく生まれ変わることができるということを伝えたいですし、この作品もまたリサイクル可能であることから、PETボトルも自然素材のように循環できる、ということを感じてほしいんです。

ただ、PETボトルというものは自然素材と違って、石油から人間の手で作り出したものだから、循環させるには人間がきちんと管理しなくてはならない。そういうメッセージが私の作品の「裏テーマ」なんです。

──なるほど。作品を通じて、見る人のPETボトルヘの認識を、「ごみ」から「循環する素材」に変えてもらうことが狙い、なのですね。

本間 そうです。日本コカ・コーラでも「ボトルtoボトル」という取り組みをされているとホームページで拝見しました。回収した使用済みPETボトルからつくった新しいPETボトルが製品として店頭に並んでいるんですよね。そういうふうに、PETボトルが素材として循環している事実がもっと広まれば、みんな分別回収に積極的になって、ポイ捨てもなくなると思うんですよね。

私は、家族や友人たちに作品の材料であるPETボトル集めに協力してもらっているのですが、もう10年続けているので、息子やその友達も「PETボトルはごみではなく楽しい何かになる材料」と理解してくれていますから、ポイ捨てはしません。

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

 

■PETボトルは循環する素材であり、高品質素材である

──「こんなに美しいものを作る材料なんだから、ポイ捨てしてる場合じゃないな」とか、「新しいPETボトルの材料になるんだから、きちんと分別回収しないとな」とか、そういう気持ちになりますよね。

本間 もっというと、そういうエコへの意識を持ってもらうきっかけになるだけでなく、この「PETボトル ソフィスティケイティッドアート」が日本の新しい工芸文化になったらいいなと思っています。

日本のPETボトルは、ものすごく高品質なんです。実際に加工していてもそれを感じますし、PETボトル製造に関わる人もそうおっしゃっていました。PETボトルを素材と考えると、日本が誇る高品質素材なんです。日本の生糸から絹織物が、粘土から陶芸が、竹から竹細工が作られ日本の工芸品として知られているように、日本のPETボトルから作られたPETボトル ソフィスティケイティドアートは、新しい日本の工芸品になり得るのではないかと思うんです。

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

──精巧さにこだわっていらっしゃることや、ソフィスティケイティド(sophisticated=洗練された、精緻な)というネーミングは、そういった思いからですか?

本間 はい。日本の工芸品の数々は、日本人らしく繊細で緻密な手仕事が魅力です。そのレベルを目指しているからこそ、精巧に作ることは大切だと考えています。といっても、今はまだ、私しかつくっていませんけれどね(笑)。

──しかし、そうやって細かな作業を積み重ね、多くの時間をかけてつくりあげた作品なのに、展示後には廃棄することもあるそうですね。

本間 アトリエに保存しているものもありますが、改良してバージョンアップしたら前につくったものは不要ですし、沖縄での展示のためにつくったジュゴンやイルカも分解してPETボトルと一緒に資源ごみの日に出しました。そういうふうにPETボトルとして資源回収に出せることを考えて、接着剤も塗料も使わずにつくっているんです。

「初めに捨てることを考えてつくるアーティストはいない」なんて言われたこともありますが、私にとっては本来のPETボトルの循環からちょっと材料を借りて作品をつくらせてもらっただけで、作品をリサイクルするのは、元の流れに戻すだけなのです。

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

セブン&アイグループと共同開発した
「完全循環型PETボトル」の「一緑茶 一日一本」を興味深そうに見つめる本間さん

 

──なるほど……本間さんの作品づくりはPETボトルの循環の一部なのですね。

本間 作品展示そのものは、小さな子どもから高齢の方々まで、どんな人が見ても楽しめるようにしています。自然観察する楽しみ、懐かしい風景に出会う楽しみ、キラキラしたものを眺める楽しみ……。PETボトルでつくったリアルで美しい自然の姿を味わってもらいながら、PETボトルの可能性を見直していただき、自然環境のことに心を向けてほしいですね。

循環する資源から生まれる感動 アーティストの本間ますみさんが語るPETボトルの可能性

〈プロフィール〉
ほんま・ますみ / PETボトルアーティスト。生物学者を目指していたが、美大に進路を変更し、1992年女子美術大学絵画科卒業・同研究科2年終了。水族館や動物園の設計・施工を行う会社に勤務後、独立し、2006年よりPETボトル ソフィスティケイティドアートの制作を始める。生物学的見地に基づいた実物大のリアルな作品は、日本各地の公共施設での個展や、ホテルや駅、デパートなどの大型施設での展示などを通じて発表。また、沼津港深海水族館、池袋サンシャイン水族館、滋賀県立琵琶湖博物館、大分県日田市立博物館、新潟県佐渡市博物館等に常設展示などで常設展示されている。PETボトル ソフィスティケイティドアートのワークショップの開催や、テレビ出演などの活動も行なっている。http://masumi-homma.com