いつの時代も、いくつ齢を重ねても、
人々をロマンチックな気分にさせる魔力がクリスマスにはあります。
そしてその魔力は、ときとして奇跡を起こします。
ここに描かれているのは、
彼氏いない歴8年の30歳代OLの身に起きた奇跡の物語。
クリスマスと縁の深いコカ・コーラ社がみなさまにお届けする
“胸キュン”のクリスマスプレゼント(=作家LiLyさん書き下ろし)です。


文=LiLy
イラスト=大橋美由紀

 「イブなのに彼氏いないとかマジ無理ー!」などと叫ぶ方が無理だ、と思う程度にはカスミは既にオトナだ。そんな黄色い声を発していた若い子たちは定時にサクッと退社済みで、彼女たちが無邪気に焦る様子をやけに嬉しそうに笑って見ていたおじさん連中も、駅でケーキでも買って自宅に戻った頃だろう。
 「よっこらしょっと!」
 腰をあげたら出た声が、ガランとしたオフィスに思いがけず大きく響いた。さすがのカスミも、これにはちょっと凹んだ。こんなんじゃ、お局を通り越して、すっかりBBAじゃないか。
「おわってるんですけど」
 それこそカスミがまだ「若い子」と呼ばれた頃からの口癖が、ため息と共に口から漏れた。30歳代もそろそろ折り返し地点に入りそうなカスミだが、脳内の言葉使いを含め、中身は20歳代からそう変わってはいない。どちらかといえば、大きく変わったのは周囲からの目で、カスミはただただ、それに合わせて「大人風な自分」を演じているだけのような気もしている。
 フロアの端には安っぽいコート掛けラックが置いてあり、カスミのコートだけがポツンとひとつ残っていた。針金ハンガーから、内側にボアがついたロング丈のダッフルコートを外し、分厚いパーカの上に更に着込む。ポケットに突っ込んでおいたニット帽をかぶり、リボ払い5回指定で購入したばかりのケイト•スペイドのバッグを、腕にかけなおす。
 ラックの隣にかかった鏡に顔を近づけると、小鼻周りのファンデーションが乾燥し、粉をふいたようになっていた。朝から化粧直しなど1度もしていないのでそれは仕方がないとしても、目立ってきたように見える法令線だけは、許せない。
 はぁっ!! 大きなため息をつき、ドア横の壁にかかった照明のスイッチに指をかける。
 パチン、パチン。
 縦に5つ並んだスイッチの上2つを押すと、会社がググンと暗くなり、ガラス窓から夜景が見えた。夜景といっても、目の前の高層ビルの残業フロアの光が、5階目線で見えるだけだが。
 パチン、パチン、パチン。
 真っ暗になった社内に蓋をするようにドアを閉め、鍵をかけたことをダブルチェックしてからカスミは会社を後にした。数年前に、9時5時で気楽に働くつもりで転職を決めたのに、いつからか、最後まで残業することも多くなった。
 IT企業といっても、ドメインとサーバーのレンタルとウィルス対策のセキュリティソフト販売を主とする会社で、従業員はテレアポのアルバイトを入れて約30人程度。正直言って、給料もたいして良くはない。カスミはここの契約社員で、経理として入ったはずが気づけば営業も兼ねていて、今は営業一本だ。これは自分でも驚く展開なのだが、けっこうな好成績を出している。となると楽しくなってくるもので、今晩も月曜の会議で提出する営業マニュアルの資料をつくっていた。営業といっても電話対応が主なので、マニュアルこそ肝なのだ。
 つまり、カスミは会社にとって「必要な戦力」なのである。実際に社長からそう言われ、来年度には雇用形態も正社員へと切り替わる。