駅前にテーブルを広げてケーキを売っている、イブの夜によく見かけるあれだ。机の上に置かれた真四角のパッケージを見るだけで、それが大手チェーン店のものだとすぐに分かる。男は景色の一部と化していて、足を止めようとする人などひとりもいなく、カスミ もその流れに押されるようにしてサッと前を通り過ぎた。
が、
そう、あれはなかなかパンチの効いた出会いだった。
「いくつ、残ってますか?」
やはり、泣いているようにしか見えない男の真っ赤な目をみながら、
「あ、えっと、1、2、3、4、5、」
テーブルの上のケーキを数える男のサンタ帽を見ながら、
「6箱です!!」
男は、まるで自分は泣いてはいないと主張するかのような明るい声で、
「頂くわ」
うっかり言っていた。
「え、全部ですか?」
男以上に
「ええ」
顔色ひとつ変えずに言ってみたら、その台詞は想像以上にオトナっぽく響き、その音を
「本当に?」
「ええ、頂くわ、すべて」
もう1度言ってみたら、やはり、脳天からコカ・コーラが噴き出したのかと思うほどスカッとした。
「ありがとうございます!」
ケーキの入った箱を次々に袋に入れながら、でも男は顔をあげ、
イケメンとは、何かが少し違う。顔のつくりも整っているのだが、それすらも包み込むような、品の良いオーラのようなものがある。
嗚呼。
肌が、見惚れるほどに、若い。
「これから、ホームパーティかなにかですか? いいっすね」
若い男特有の無邪気さで、男がニッと笑って、
「もう、そんな時間じゃないでしょう」
うふふ、と笑うような感じで言おうと思ったのに、
「••••••。あの、まとめて買って頂いたので、お値引きしますね」
端数を切り捨ててくれたがそれでもホールケーキ×6個の合計は、1万8,000円。財布の中から1万円札を2枚引き出しながら、ふと芽生えた同情心にしてはなかなか高くついたな、と
「あの、僕、もう、あがるんですけど。ていうか、買って頂いたので、あがれるわけなんですけど、もし、その、もしあれなら、一緒に食べます?」
「え?」
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