カスミの声が裏返る。マヌケなほどに甲高く響いた声をかき消すために即、そっけない表情をつくって続ける。
「もしあれって、なに? 」
 だって、なによ。もし、イブにひとり身でヤケを起こしてケーキをドカ食いするつもりならあんまりにもアレだから、という意味なのか? 同情返しか。というか何故、彼氏がいないと決めつけるのだ。いや、彼氏どころかダンナがいたって不思議ではないのでは。未婚だということは、そんなに一目瞭然なものなのか。カスミの被害妄想は止まらない。
「いや、あの、ごめんなさい。図々しいですよね」
 ごめんなさい、という男の声を久しぶりに聞いた気がした。良い音だ。
「じゃあ」
 ケーキを次から次へと受け取りながら、カスミは言う。
「もしあれだし、一緒に食べてもらおっかな」
 次から次へとケーキを渡していた男が手を止め、笑顔になる。
「じゃあ、あの、僕が、あったかいコーヒーでもごちそうしますんで」
「うふふ」
「あはは!」
 ヤバイ。なにこの、予想もしていなかった、イケてる展開!
 男が最寄りの店舗に机やレジなどを撤収しているのを、店の外で待つカスミの胸は、ドキドキドキドキと高鳴り続けている。さっき、「彼女に怒られちゃうかな」なんていうお決まりの台詞で探りを入れたら、いないというのだ。遠距離の彼女がいたが、数年前に別れて以来ひとりだというストーリーの中にも、彼の誠実さが垣間見えた。
 この出会いが、どうなるわけでもないことを分かっているほどには既にオトナだ、とか思いながらも、職業がケーキ売りのアルバイトでは結婚は難しそうだ、などと考える程には期待を寄せている。だって、ハンサムだし、総合的好感度が、高すぎるのだ。
 オトナの女は、色濃い矛盾を抱えるもの。
 なぁんてキャッチコピーを自分につけたところで、
「お待たせしました! 寒かったですよね、ごめんなさい!」
 ニット帽にリュック姿に着替えた男が、慌てた様子で店から出てきた。