あら、オシャレさん。

 自分の脳内言語のBBA臭さに苦笑しながらも、彼のキャメル色のダッフルコートが、自分のネイビー色のそれとまるでお揃いみたいで、カスミは思わずはにかんでしまう。
「大丈夫よ。でも確かに寒いし。ねぇ、ケーキは後で頂くとして、ちょっとどっか暖かいところで飲まない?」
「俺、そんな強くないんですけど、でも、はい!」
 それはまぁ、なんて可愛い。
 酒が弱いという若いコをバーに連れゆくオッサンは、こんな気持ちなのだろうか。そんな下心を胸に、カスミはサッと片手をあげて空車のタクシーを拾い、開いたドアから自分が先に乗り込んだ。
 グッと2人の距離が近づく密室のタクシーで、男はタクミという名で、年齢は28だと言った。もっと若くみえる、と言うと、貫禄がまるでないんっすよ、と照れたように鼻の頭に手をやる。
 その仕草も、極めてキュート。
 歯がキレイだよね、とカスミがからかうようにタクミに言うと、少年時代に歯科矯正をしていたという。
 お育ちが、良いではないか。
 しかし、30歳手前でまだケーキ売りのバイトじゃあ、きちんとしているに違いない親御さんたちも、さぞ心配していることだろう──なんてことまで思ってしまった自分のおばちゃん加減にいい加減嫌気がさした直後だったこともあり、
「二コ上くらいっすか? カスミさん」
 と言われた時は、口元を手で隠すこともスッカリ忘れて巨大な笑顔を見せてしまった。まぁ良い。カスミも歯には自信があるのだ。矯正したわけではないけれど。
「俺、タイプだなぁ、カスミさんの顔」
 バイトをあがったからか「僕」から「俺」へと呼び方を変えたタクミが、突然、真顔でそんなことを言う。
「••••••や、やだぁ。からかわないで!」
 とか言いながらどさくさに紛れてタクミの腕を、バンバン叩くように触れる、カスミのテンションは今や、スカイハイ。 
 顔がタイプだなんて、男の人に言われたのはどれくらいぶりだろう。少なくとも、30歳代になってからは初めてだ、たぶん、いや、絶対だ。
「なんか、カスミさんって、突然目の前に現れた」
 ドキッとしすぎて息を呑むと、
「サンタクロースみたいっすね」
 的はずれなタクミの台詞に、カスミは思わず噴き出した。でも、悪い気はしない。全然しない。