「爺さんが立ち上げて、親父が全国に展開して。よく言うじゃないですか、3代目が潰すとか。けっこう、プレッシャー感じてて。で、さっきカスミさんが言ったこととズバリ同じこと、俺も考えて。パティシエ目指して、パリに留学してたんですよ。でも結局、言葉の壁もあって、挫折して、去年帰国して。結局会社に入ったんです。一番下っ端からやらせてくれって、親父に頭下げて。
 でも、一番売れるイブの夜に、ケーキすらまともに売れなくて。なんかクリスマスに、俺、すげぇ情けなくなっちゃって」
 ちょっと、ちょっと、ちょっと待って。カスミは、やっとの思いで口を開く。
「3代目って、えっ? タクミくんが、継ぐってこと? その、」
 業界最大手のケーキメーカーの名を口にすると、タクミは静かに頷いて、それがなんでもないことのように話を続ける。
「って、俺、なんでこんなカッコ悪いはなし、ベラベラと話しちゃってるんだろ。カスミさんの前だと、調子狂う。なんか、俺、会ったばっかであれだけど、」
 真剣な表情でタクミに見つめられ、カスミは声すら出せずにいる。
「好きです」
 そう言った御曹司の声の後ろで、うっすらと流れるオルゴール音が、耳馴染みあるメロディを奏でている。
 ジングル、ベール、ジングル、ベール。
 カスミの脳内で、ベルが、鳴りじゃくる。
「The end」