日中最大16時間冷却を停止しても製品の保冷が可能なピークシフト自販機は、
従来機比で95%*の節電を実現した。

この革命的自動販売機誕生の背景には、
近年ますます重要度を増すCSRを重視する
日本コカ・コーラの経営姿勢がある。
いま、なぜ、CSRなのか? 米倉誠一郎がその理由を語る。

文=星野貴彦
写真=間仲宇


国内に2万5000台の“節電所”をつくったことの功績

 僕は「安全性」と「コスト」の面から、もう原発は使うべきではないと思っています。とはいえ、現状の日本の電力の原発依存度は約3割もあって、太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーでは短期間にすべてをカバーしきれないのも事実です。そうであるからこそ、供給サイドに加えて需要サイドのイノベーションが必要ではないかと思っています。日本人なら、このビル、この街、そしてこの国で、エネルギーのピーク需要を減らすためのイノベーションをつくり出せると思っていますし、それを実現する技術力があると思っているのです。

 そのような問題意識があったから、日本コカ・コーラの「ピークシフト自販機」の存在を知ったときには、「我が意を得たり」と思いました。この自動販売機は消費電力を95%削減します*。夜間に集中冷却することで、日中は最大16時間冷却運転を停止する。断熱性や気密性を高めることで、自動販売機を「魔法びん」のように冷たいままに保つ。まさしくイノベーションです。2013年1月から12月までに2万5000台の設置を計画しているとのことで、これは「日本全国各地に2万5000台の『節電所』ができた」と言い換えることができるでしょう。

*従来機比で夏の日中に使用する消費電力を95%削減


米倉誠一郎が語る
「ピークシフト自販機とCSRのココロ」

なぜ、いま「CSR」なのか

 このような取り組みが生まれてくる背景には、ますます重要になる「CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の考えがあると思います。企業というのはパブリックな存在です。単体では社会に存在し得ません。企業のステークホルダー(利害関係者)である株主、お客様、従業員、取引先から信頼を得られ、そして企業が立地する地域、社会全体が持続可能であってこそ、企業も持続可能となる。それが、CSRの考えです。その意味で、事業活動を通じて社会問題や国内の課題を解決することこそがCSRの理想ですし、電力需要の調整という課題に応えることにつながったピークシフト自販機は、CSRの象徴と言っても良いかも知れません。
 ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は「CSR」の概念をさらに進めた「CSV(Creating Shared Value)」という概念を提唱しています。社会問題を解決する製品やサービスの提供は、結果として企業の競争力を高める。社会的責任を果たそうとする経営は、長期的に良い結果を生むということです。

社会問題を解決する、というビジネス

 社会問題や国内の課題を解決することこそがCSRの理想と言いましたが、そもそも「CSR」への関心の高まりは、「ソーシャルビジネス」や「ソーシャルアントレプレナーシップ」の登場を背景としています。「援助や施し」ではなくビジネスのスキームで社会問題の解決を図ろうという考え方で、その取り組みからさまざまなイノベーションが生まれてきたのです。 
 有名な事例は、バングラデシュのグラミン銀行です。バングラデシュは世界中から多額の支援を集めてきたにも関わらず、貧困問題が一向に解消されませんでした。銀行創始者のムハマド・ユヌスさんは、「単なる施しでは貧困層が堕落するだけ。彼らが意欲的に生きていけるためのシステムが必要だ」と考え、1977年にグラミン銀行を設立、貧困層への小口融資=マイクロファイナンスを立ち上げたのです。

米倉誠一郎が語る
「ピークシフト自販機とCSRのココロ」

グラミン銀行のマイクロファイナンスが教えてくれること

 この融資が画期的なのは、しっかり銀行としての利益をとりながら、貧困層を自立させ、救済していること。利率は平均20%と高めですが、無担保融資ですから誰でも借りられます。ただし融資を実施する際には5人一組のグループを組まされ、グループ内で情報交換や助け合いが実施されます。また、一人でも返済を終えない人が出るとグループ全体が融資を受けられなくなる連帯責任制(連帯保証ではない)があることもあり、何と貸倒率は0.5%を切っていると言われます。ビジネスとしても成功し、同時に社会貢献も果たす。これぞ、「ソーシャルビジネス」です。ユヌスさんは、その功績で2006年ノーベル平和賞を受賞しました。
 資本主義のダイナミズムをうまく使えは、さまざまな社会問題を解決できる。「ソーシャルビジネス」や「ソーシャルアントレプレナーシップ」はそれを現実のものとしています。その流れの中での「CSR」でもあるのです。

「ピークシフト自販機」サイト


プロフィール

よねくら・せいいちろう/一橋大学イノベーション研究センター教授。南ア・プレトリア大学GIBS日本研究センター所長
。研究分野:経営史・イノベーション史
。1953年東京生まれ。1977、1979年一橋大学社会学部・経済学部卒業。
1981年同大学大学院社会学研究科修士課程修了。
1990年ハーバード大学歴史学博士号取得。
1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、1997年より同大学イノベーション研究センター教授。現在、イノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセス、組織の史的研究を専門とし、『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、六本木アカデミーヒルズにおける社会人のための日本元気塾塾長も務める。